しかし、金委員長にとって文大統領と対話を行う意味は、文大統領を通じトランプ大統領に北朝鮮の意向を説得してもらうことである。それにはトランプ大統領が文大統領を信頼していることが不可欠である。なのに、文大統領は「金委員長と連携すればトランプを動かせる」と勘違いしている。一方のトランプ大統領は、文大統領が北朝鮮の非核化の意思を強調するのとは裏腹に、「北朝鮮は非核化に前向きに取り組んでいない」と疑っている筈である。
北朝鮮の非核化意思は固いと思いこませようとした文大統領
そもそも、米国が米朝首脳会談に応じるようになったのは、昨年3月、南北首脳会談の結果を報告するため鄭義溶国家安保室長が訪米し、トランプ大統領に金正恩氏の非核化への強い決意を伝達し、「金委員長はできるだけ早くトランプ大統領に会いたがっている」と伝えたのが発端である。トランプ大統領は、その場で米朝首脳会談開催を決意した。
しかし、トランプ大統領が米朝会談の開催を即断した意図は、米国の中間選挙に向けて手柄を立てたいからであった。その後の交渉で北朝鮮は非核化に消極的なのが明らかになり、ハノイでの首脳会談で、北朝鮮が老朽化した寧辺の一部の施設の廃棄の代わりに制裁の主要な部分の解除を求めてきたことが「北朝鮮に非核化意思がない」と判断する決め手になった。こうした状況では、北朝鮮に挑発を再開させないことが重要であり、制裁緩和を急ぐ必要はない。韓国の説明が誤りであったことは明らかである。米国が、北朝鮮に対し、一切譲歩することなく会談を切り上げてきたのはこのためである。