一方で凡人は、秀才のことを天才だと勘違いしており、成果を出す前の天才のことは「コミュニティの和を乱す異物」程度にしか認識していません。なんとなく不気味で怖いから、彼らもまた天才を排斥しようとします。

 天才は「創造性」、秀才は「再現性=論理性」、凡人は「共感性」に長けているので、軸がかみ合わないのです。

 事業ライフサイクルで考えるとわかりやすいです。導入期は一人の「天才」がキーです。天才は、まだ世にない新しい価値をゼロから生み出すことが出来ます。そこで市場の掴み方が分かり、一発当たると成長期に入ります。ここからは秀才の出番です。仕組み化して組織を大きくしていくのです。そして安定期になると完全に秀才と凡人の世界です。改善や改良はあるとして、ビジネスモデルが固まり、それを安定的に回して効率化し、生産性向上を行うのが理にかなっているからです。この時期には天才は“異端”になります。多数決という刃物で天才の提案を切り刻み、その存在ですら殺そうとします。実際に閉職や退職に追いやられた天才は数えきれません。縦・横の根回しが必要になるのはこの段階です。そして、天才を失った組織は急速に老化していきます。

 そう、組織は成長もしますが、老化もするのです。老化を遅らせることはできますが、年齢を若くすることはできないと同じです。組織も老化するともとには戻れないのです。人間が美容整形で表面的に若くできても、内臓も一緒に20代の姿に戻せないのと一緒です。

凡人の仮面をかぶった元天才を探しだす

 天才を失った組織は老化します。では、もしも自分の組織にもう天才が存在しない状況になっていたならどうすればよいのでしょうか。

 そのまま、ゆっくり衰退期に向けて死にゆくのを待つのは寂しすぎます。かといって、秀才は天才にはなれません。外資系コンサルタントが経営者にはなれても、世にない新しい価値をゼロから生み出せたりしないのと一緒です。

 解決法は2つあります。1つは、天才に復帰してもらう、もしくは他社から来てもらい、秀才が握っている権限を譲り渡すことです。あのステーブ・ジョブズという天才も、一度アップルを秀才と凡人に追い出された過去があります。そして業績が低迷したアップルは、再びジョブズを迎え入れました。ジョブズ復帰後のアップルの快進撃は鮮やかなものでした。あれと同じことをするのです。

 もう1つの解決法は、社内で埋もれている「元天才」を炙り出すことです。

 秀才と凡人が統制する組織で、天才は評価されません。それでも会社を去らなかった天才は、社内で生き残るため「凡人の仮面」を被り、ひっそりと生きているのです。少なくとも社内で評価されている母集団には在籍していないことがほとんどです。そして、今となってはまるで凡人と同じような思考・行動を取って、自分の存在をカムフラージュしているのです。

 学生時代にメジャーデビューが決まっていたバンドのギタリストが、その後、家庭の事情でやむなく就職し、平凡なサラリーマンとして組織の中に埋もれている、なんていうこともあります。そういった場合、周囲に豊富な音楽的知識を持っている同僚でもいない限り、本人はわざわざ昔の経歴を語ることもありません。語ってもどうせ正しく理解されないからです。そういう人物を発掘する作業に似ています。

 ただ、組織の中で完全に埋もれてしまった天才をどうやって炙り出せばよいのでしょうか。お勧めしたいのはパーソナリティテストの活用です。

 人の根本的な資質(動機・性格・価値観など)は20歳前後で決定し、それ以降は大きく変わりません。ですから、革新性を含め、天才の資質はパーソナリティテストで炙り出せるのです。ただ、このテストだけで天才かどうかは判断できません。資質はあってもスキルが低い、なんていうこともありますので、検証の必要があります。元天才から天才に戻れそうかを研修や実務の様子を見て検証してみましょう。