実はコンサルティングの実務の中も「イノベーター探し」はよく行います。コンサルタントに手を借りる企業は、人事部の評価軸で選ばれた人材に任せてもイノベーションを起こない歴史が続いてきたわけですから、コンサルタントは思い切って人事評価以外の手法を持ち込んでみることが多いのです。実際そうやって窓際や閉職の中から「元天才」が発掘されることは少なくありません。周囲からは「えっ。あいつが?」と眉間に皺寄せられるような人物であることが大半です。天才の資質は、凡人が評価される仕事には合わないのでそれまでパフォーマンスを上げられなかったケースが多いからです。それでも彼らには、凡人の仮面が本当の顔以上に馴染んでいることが普通ですので、本当に「天才」なのかどうか、実際にやらせてみる必要があるのです。

違いがわかれば、分かり合える可能性が

 さて、天才候補が見つかったとしましょう。しかし、ここで安心してはいけません。なぜなら、またもや天才を飼い殺しにしたり、秀才と凡人の多数決で「抹殺」したりするようなことになりかねないからです。では、判断の「軸」が違うためになかなか分かり合えない天才と、秀才や凡人はどう付き合ったらよいのでしょうか?

 北野さんは『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ』の中で、このように指摘しています。誰の中にも「天才」「秀才」「凡人」の資質はあることを思い出せばいいのだ、と。

 人は誰でも創造性を持っています。そしてあるアイディアが思い浮かんだ時には、天才→秀才→凡人の順で思考が駆け巡っています。

 自分の中の天才が思いついたアイディアを、秀才が社会的な基準やロジックで「良いか、悪いか」を判断する。最後に「笑われたら恥ずかしい」等の感情で判断し凡人がでてくる。という流れです。自分の中の天才を秀才と凡人が殺しているとも言えます。

「サラリーマンにしかなれないようなやつに天才はいない」と決め込むことで、自分の中のリトル天才=創造性の芽を摘んでしまうことと一緒です。

 そう、程度の差はあれ、誰しも天才=創造性という資質を持っているのです。天才、秀才、凡人とは思考のプロセスとも言えます。天才、秀才、凡人の差異を理解すると、頭の中で天才⇔秀才⇔凡人が行ったり来たりできるようになり境界線がなくなります。自分の中で天才に対する嫉妬が芽生えても、芽が出た段階で摘み取ることもできます。自分の中の天才、秀才、凡人の心の壁を溶かすことで、縦の根回しの余計や調整とストレスを減らすことができるようになるのです。

 天才、秀才、凡人を意識することで、あなたに2つの効果が表れます。

 1つは「今の組織の寿命」が見えてくることです。秀才と凡人しか残っていなければビジネスモデルの終焉が会社の寿命です。強い企業は業績がいい時に天才の居場所を作ることでビジネスモデルをアップグレードしています。富士フイルムがそうですし、グーグルもアマゾンもそうです。組織を見切るか、縦の根回しを駆使して天才の居場所をつくりあげるかの判断はあなた次第です。

 もう1つは、自分の中の伸びしろを最大限に活用できるようになることです。人は安全がないと挑戦できません。今、凡人だとしても、自分の中の「リトル天才」、「リトル秀才」を召喚することで、自分のポテンシャルをより強く活かすこともできるようなります。市場価値を自分で上げられるので自信と安全が生まれます。安全があれば天才を活かして大胆な挑戦のカードを今の組織で切ることもできます。

 ただし、その挑戦は大きくないと誰も認めてはくれません。大きな挑戦でないと、そのチャレンジに誰も気づいてくれないからです。失敗しても、大きな挑戦であれば社外の評価は高まります。大きな挑戦と失敗の経験がある人材は貴重だからです。少なくとも会社に自分の人生のレールを預ける不安は解消されるようになります。

 まずは自分の中の天才、秀才、凡人の資質を把握し、それに対する理解を深めるところから始めてみましょう。この記事を読んだあなたは、すぐ実行できるはずです。