「アメリカによる平和」と「中国による平和」のせめぎ合い

 アメリカ第一主義を掲げ、失業者に職を与えると意気込んだトランプが採用したのが保護貿易である。鉄鋼、アルミなどに外国産の製品に高関税を課し、国内産業を保護した。そしてとりわけ標的になったのが、中国である。

 その結果、中国経済のみならず、アメリカ経済にも世界経済にもマイナスの影響が広がりつつある。しかし、米中貿易摩擦は単に貿易をめぐる競争のみならず、軍事面も含めて世界の覇権を獲得するための争いでもある。

 そのことを示したのが、華為(ファーウェイ)の孟晩舟CFOを逮捕である。12月1日、アメリカの要請でカナダ政府は彼女を逮捕したが、これは、米国の制裁対象製品をイランに輸出した疑いによる。これに中国政府は猛反発し、新たな米中摩擦の種となっている。

 まさに先端技術をめぐる米中の覇権争いであるが、ZTEを攻撃したときもアメリカは同じ手法をとった。ファーウェイとZTEがアメリカ政府の攻撃の的になっているが、米中貿易摩擦が激化する中で、先端技術をめぐる「戦争」が起こっていると言っても過言ではない。

 1980年代の日米摩擦を思い出すが、産業用ロボットでアメリカを凌駕した日本をアメリカは警戒し、結局は、金融を含むあらゆる手段で日本は封じ込められてしまった。

 ファーウェイCFO の逮捕劇が象徴しているのは、世界の覇権をめぐるパックス・アメリカーナ(アメリカによる平和)とパックス・シニカ(中国による平和)のせめぎ合いである。前者が勝つという保証はどこにもない。

 それは、最新鋭の通信技術分野で、中国の追い上げが凄まじいからである。第一次大戦後の鉄鋼生産量を見ると、ドイツが伸びてイギリスを引き離していき、第二次大戦となった。当時の鉄鋼に相当するのが、今では通信技術である。歴史が繰り返さないことを祈るしかない。異質の大統領トランプと異質な専制君主習近平とが展開する戦いの行方に注目せざるをえない。

 アメリカ議会は、つなぎ予算を可決せずに休会している。メキシコ国境の壁建設費50億ドルが含まれていないとして、トランプ大統領が署名を拒否しており、与野党が対立しているからである。22日から政府機関の一部が閉鎖され、職員80万人が一時帰休するなどの影響が出ている。

 来年の1月3日以降は、下院は民主党が過半数を制する「ねじれ議会」となるため、トランプ大統領としては、その前に国境の壁建設予算を通したい思いであろう。しかし、見通しはたっていない。

 アメリカの分断はますます酷い状況になっており、2019年の世界は大きな試練を迎えそうである。