中東に関しては、トランプ政権下で不安定要因が増したことは否めない。イスラエルでは、テルアビブにあったアメリカ大使館をエルサレムに移転し、同地を首都と承認した。このような親イスラエル路線は、パレスチナ問題の解決を困難にしている。またイランとの核合意から離脱したことは、欧州や日本の失望を買い、中東に混乱を呼んだ。サウジアラビアの記者殺害事件についても、サウジ王室寄りの姿勢を維持して、人権を重視する国々の批判の的となっている。

「良識派」が次々と去り政権はイエスマンばかりに

 そのような中東政策の混迷は、最近のシリアをめぐる一連の決定でも露呈してしまった。

 トランプは、シリアから米軍を撤退させることを決定したが、これに抗議してマティス国防長官は辞任した。実はISの掃討作戦はまだ続いているのであり、米軍撤退がもたらすリスクは大きい。撤退によって、シリア情勢に積極的に関与できなくなり、中東におけるアメリカのプレゼンスが希薄になる。それはロシアやイランの影響力が増すことを意味する。

 アメリカ不在でも、これまではイギリスとフランスが自由陣営の代表として中東の安定に寄与してきていたが、今や、イギリスはBREXITで、フランスは反政府デモで揺れており、積極的な海外介入の暇はない。

 トランプは、来年1月1日にマティス国防長官の辞任を前倒しすることを決定し、パトリック・シャナハン副長官を長官代行に指名した。シャナハンは、ボーイング社の元幹部で、軍や政府の経験は無く、外交も素人である。トランプ政権の外交・安全保障政策に対する世界の信頼は大きく損なわれるものと思われる。

 有志連合によるIS掃討の調整役マクガーク米大統領特使も、シリアからの米軍撤退に抗議し今月末に辞任する。トルコのエルドアン大統領は、電話協議中に米軍の撤退を要求したところ、トランプに即決で「イエス」と言われ、逆に唖然とし、「そんなに急がなくてもよい」とたしなめたという。

 マティス国防長官辞任について、トランプは、「マティス礼賛・トランプ批判」のマスコミ論調に激怒し、マティスが主張する同盟重視路線をも批判している。しかも、米軍撤退決定への批判の高まりに、一転して「撤退は急がずに慎重に行う」と表明する始末である。

 そして、26日には夫人ともどもイラクを電撃訪問した。海外紛争地に駐留する米軍を訪問するのは就任後初めてであるが、米軍兵士にIS排除に対する謝意を伝え、イラクからの撤退はないと表明した。これは、シリアからの米軍撤退決定で大きな批判を浴びたため、それを挽回することを狙ったためと考えられる。そして、「アメリカは世界の警察官であり続けることはできない」と述べ、「多くの国が我々の軍隊に対価を払っていない」と不満を表明した。これは、マティスの同盟国重視を皮肉ったものである。

 以上のように、このシリアからの米軍撤退決定前後の状況を再現すれば、トランプ外交の危うさがよく分かる。「小学5年生の理解能力しかない大統領」と評したマティスは最後の良識派であったが、彼も、そしてケリー大統領主席補佐官も年内で政権を去り、イエスマンばかりのチームが残ることになる。