ファーウェイは、逮捕された「王女」の父で、人民解放軍の技師だった任正非氏が創立(AP/アフロ)

(近藤大介・ジャーナリスト) 

 昨今、「米中新冷戦時代」の到来とも言われる。実際には、もう少し両大国の角逐の経過を見てみないと分からないが、一つ言えるのは、トランプ政権が中国の歴史をよく学んでいるということだ。

「人質」に取られたファーウェイの「王女」

 中国の戦国時代(紀元前5世紀~紀元前221年)は、「人質外交」の全盛だった。どんなに冷徹無比な王であっても、我が子は目に入れても痛くないものだ。そのため、敵国の王子を人質に取ることで、敵国からの攻撃を避けようとしたのだ。戦国時代を終焉させて初めて全土を統一した秦の始皇帝(紀元前259年~紀元前210年)も、父・子楚が人質に取られていた趙の国で生まれている。

 今年(2018年)12月6日、中国最大の通信機器メーカー、華為(ファーウェイ)技術の「王女」こと、孟晩舟副会長(46歳)が「人質」に取られたというニュースが、世界中を駆け巡った。トランジットで立ち寄ったカナダの空港で、「アメリカの要請によって」逮捕されたというのだ。

逮捕された孟晩舟副会長(同社サイトより)

 華為は、人民解放軍の技師だった任正非(74歳)が、1987年に深圳で創業し、軍や国有企業の通信システムなどを担って急成長した。任正非はこれまで3回、結婚しているが、今回逮捕された孟晩舟は、最初の妻・孟軍と間の長女である。

 華為の社名の由来は「中華有為」で、中国が意義のあることを為すという意味だ。この社名からも分かるように、民営企業ではあるが、決して上場せず、国策企業的要素を持った組織である。中国中央テレビ(CCTV)が今年春から宣伝番組を放映している「中国ブランド18社」にも選ばれている。

 任正非は、習近平主席の「朋友」としても知られる。それはひとえに、2人の「宗教」が同じだからだ。すなわち両者とも、建国の父・毛沢東元主席の崇拝者なのである。毛沢東思想を政治的に実践しているのが習近平主席で、「毛沢東思想を商業化する」としてビジネス界に乗り込んだのが任正非だった。