報道の2日後には、第2回ヒトゲノム編集国際会議にHe氏が登壇し、関連するデータを示した。その様子はアーカイブ(Session 3の1:15:30あたりから)ですべて見ることができる。ただ、本稿執筆時点では論文は発表されておらず、第三者が検証するために必要な生データも公表されていない。

 つまり、壮大なフェイクの可能性も残されている。

 仮に本当だったとしても、技術的・医学的・倫理的な問題が多く指摘されている。このうち、技術的問題を理解するためには、ゲノム編集という技術について簡単に知っておく必要がある。

 筆者はこれまで、ゲノム編集に関する記事をいくつか書いてきて、トークイベントなどにも参加してきた。改めて、ゲノム編集という技術がもつ可能性を探っていこう。

どうして遺伝子が体の特徴を決めるのか?

 最初は勉強タイムになるが、イラストを見ながら読み進んでほしい。

 まず、ゲノム編集という言葉にある「ゲノム」とは、「ある生物がもつすべて遺伝子」という意味だ。ヒトなら、2万2000種類あるとされる遺伝子すべてを指す。

 遺伝子は「DNA」という物質からできている。遺伝子にある情報をもとにしてタンパク質が作られ、そのタンパク質が体内でさまざまなはたらきをする。異なる遺伝子からは、異なるタンパク質が作られる。


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 大まかな言い方をすれば、「遺伝子をもとに、体を特徴づけるタンパク質が作られる」となる。胎児の段階で心臓を作るという重要なことだけでなく、お酒に強いかどうかというちょっとした個人差の中にも、遺伝子が関係するものがある。