農業問題を解決、エイズやがんを治療できるかも
基礎研究では、病気となるように遺伝子を変えたマウスで、病気の原因解明や治療法発見などのために使われている。
また、農作物、水産物、畜産物など食品分野への応用も進んでいる。
【参考】「“衝撃”のゲノム編集、作物は食卓に並ぶのか?」
医療においても、海外で臨床試験がいくつか行われている。いわゆる「遺伝子治療」と呼ばれるものだ。
例えば、エイズを発症したHIV(ヒト免疫不全ウイルス)患者から、免疫に関わる「T細胞」を採取し、HIV感染の目印となるタンパク質を作る遺伝子を壊して患者に戻せば、HIVは感染する手立てがなくなるため、エイズを治療できる可能性がある。アメリカではすでに臨床試験が行われ、HIVの検出量が下がったと報告されている(Tebas et al., N Engl J Med, 2014)。
同様の方法で、がん細胞に攻撃できるようにT細胞をゲノム編集する「CAR-T療法」も研究されている。
ただし、この方法を悪用することで「遺伝子ドーピング」という問題が浮上するのは知っておいていいだろう。例えば、血液で酸素を運ぶ赤血球を多く作らせるように遺伝子を改変すれば、酸素を多く運べるようになり、持久力が勝負となる長距離競技で有利になるかもしれない。この問題に対しては、世界アンチ・ドーピング機構は先手を打ち、2018年1月に発効した禁止リストでは「遺伝子編集(ゲノム編集)物質の使用禁止」が盛り込まれた。
話を元に戻そう。治療目的で遺伝子を変えることへの懸念はあるが、患者がメリットもリスクも受け入れて同意のもと、治療効果や副作用を丁寧に追跡するという点では、新しい医療機器や治療薬を使うのと大きく変わらない。遺伝子が変わるのは一部の細胞のみで、そこから精子や卵子が作られることはまずないため、変化した遺伝子が子孫に伝わることはない。