ゲノム編集はどのような技術で、どのような可能性があるのか。

 世界中を驚愕させた、中国での「ゲノム編集による子どもの誕生」のニュース。今回の出来事は、技術の進歩とともに直面するさまざまな問題を、早くも社会に突きつけることになった。ゲノム編集にはどのような可能性と問題点があるのか、そして今後の議論はどこに向かうのか。サイエンスライターの島田祥輔氏が2回にわたり解説する。(JBpress)

 11月26日、「ゲノム編集」という方法で受精卵の遺伝子を人為的に変えた赤ちゃんが誕生した、というニュースが世界中を駆け巡った。

 これが事実かどうか現時点では不明だが、秘密裏に行われたこと、技術的・医学的・倫理的問題が多く含まれていることから、多くの批判が寄せられている。

 ただ、これを機に「ゲノム編集とは何か?」「ヒト受精卵へのゲノム編集は何が問題なのか?」について考えるのは、意味のあることだろう。

 そこで前篇となる本記事では、ゲノム編集とはどのような技術なのか、簡単な原理と応用研究を紹介する。後篇では、ヒトの受精卵にゲノム編集を施すことの何が問題なのか、整理する。

そもそも、このニュースは本当なのか?

 本題に入る前に断っておきたいのが、今回報道されたことが本当なのか不明であることだ。

 本来、ヒトを対象にした試験は、所属機関である大学や医療機関の倫理委員会の承認を受け、結果がある程度そろったら(よい結果だったかどうかに関係なく)学術誌に論文を投稿し、掲載されたら正式に発表するのが通常のフローだ。

 ところが今回は、『MIT Technology Review』の特ダネから噂が広がり、直後にAP通信の独占インタビューで明らかにされたという経緯になっている。研究者が所属する大学ですら事前に報告を受けておらず、独立委員会を立ち上げて調査に乗り出すと声明を出した。倫理委員会に申請すらしていなかったのだろう。