乳児期の食事の方法によって、腸管の免疫反応を正常に保とうとする考え方がある。

 私たちは「食」の行為を当然のようにしている。では、私たちの身体にとって「食」とは何を意味するのだろうか。本連載では、各回で「オリンポス12神」を登場させながら、食と身体の関わり合いを深く考え、探っていく。
(1)主神ジュピター篇「なぜ食べるのか? 生命の根源に迫る深淵なる疑問」
(2)知恵の神ミネルヴァ・伝令の神マーキュリー篇「食欲とは何か? 脳との情報伝達が織りなす情動」
(3)美と愛の神ヴィーナス篇「匂いと味の経験に上書きされていく『おいしい』記憶」
(4)炉の神ヴェスタ篇「想像以上の働き者、胃の正しいメンテナンス方法」
(5)婚姻の神ジュノー篇「消化のプレイングマネジャー、膵臓・肝臓・十二指腸」
(6)狩猟の神ディアナ篇「タンパク質も脂肪も一網打尽、小腸の巧みな栄養吸収」

「疾(はや)きこと風の如く、徐(しず)かなること林の如く、侵掠(しんりゃく)すること火の如く、動かざること山の如し」

 これは武田信玄の軍旗に書かれていたとされる『孫子』の軍争篇第七の書き下し文である。「風林火山」と言えばピンとくる人も多いだろう。

 この慣用句は、ヒトと病原体との攻防もよく表している。すなわち、病原体に感染すれば迅速に対処し(疾きこと風の如く)、その病原体の情報を確実に蓄積し(徐かなること林の如く)、再び感染したら大部隊でピンポイントに総攻撃し(侵掠すること火の如く)、どんな病原体にも対処できるように着々と準備を続ける(動かざること山の如し)のである。

 このように体内の異物を排除する総合的な防御システムを「免疫系」と呼んでいる。

外部と直に接触する腸管は常に臨戦態勢

 ギリシャ・ローマ神話においてこの免疫系を象徴するのは、やはり戦闘の神「マーズ」であろう。思想信条や敵味方は関係なく、基本的に闘いが好きな神だ。

 恐慌の神とされる「ダイモス」と、混乱の神とされる「フォボス」という2人の息子を引き連れ、戦車をひく馬に「火」「災難」「炎」「恐怖」などと名前をつけている。当然、暴走することもしばしばで、他の神々から厄介者として扱われ、たしなめられることも多い。とはいえ、外敵を撃退するために常に臨戦態勢なのは致し方ない面もある。