「SUSHI」と言えば、いまや世界で最も有名な日本料理だ。だが、カリフォルニアロールをはじめ、海外で広がったSUSHIに対して日本や日本人は極めて冷淡な態度を取ってきた。かつて政府が“正しい日本食”を推奨しようとした際、米紙からは「SUSHI POLICE」と揶揄されたことも。そうした意識はなお残っているが、日本食のグローバル化に果たした貢献度は高く、「里帰り」して新たな和食メニューに育てる動きも始まっている。
(沢田眉香子:編集・著述業)
世界でもっとも人気を得た日本料理
東京・上野の国立科学博物館で開催中の「和食」展に行ってきた。科学の眼から和食を探求するというテーマは興味深いものだったが、残念なことに、肝心の和食を見る眼が古めかしいという印象は否めなかった。
特に残念だったのが寿司に関する展示だ。
江戸の寿司屋台を原寸大で再現し、「意外に知らない寿司ネタ」を図解するなど、かなりのボリュームを割いていたが、その一方で、いま世界各地で楽しまれている寿司については、スナップ写真のパネルだけ。
この半世紀、世界でもっとも人気を得た日本料理は寿司だ。その広がりは、カリフォルニアロールをはじめ現地でローカライズされたユニークな寿司がリードしてきた。その現象が、いかにもそっけなく扱われている。
それを見て、日本人の頭の中には、20年前に物議を醸した「SUSHI POLICE」がすみ着いているのかもしれないと感じた。
SUSHI POLICEから20年変わらない「正統な和食」信仰
SUSHI POLICEの一件は、こうだ。
2003年、小泉純一郎内閣の下に知的財産戦略本部という新しい機関が設置され、その中に、日本ブランド・ワーキンググループが設置された。国家戦略上、重要なものとして、食、地域ブランド、ファッションの3つが絞り込まれ、食関連の事業のひとつとして「日本食レストラン推進機構(JRO)」が設立された。同機構は「海外日本食レストラン認証制度」案を発表し、本来の日本食を提供する店を認証(後に「推奨」と変更)して推奨マークを交付しようとしたのだ。
これに対し、米紙ワシントンポストは「カリフォルニアロール発祥の地、アメリカよ、気をつけろ。SUSHI POLICEがやってくる」と見出しをつけた記事で揶揄した。