この例などは、現場に任せれば任せるほど部分最適が進み、結果、全社矛盾が生じてしまうケースと言えます。

 こういった場合、経営会議で判断してもらうのもいいですが、部門をまたがる会議などのソフトマターを止めるかどうかの検討は経営会議ではしにくいものです。組織横断的な「止める会議」を活用して全社にまたがる矛盾やムダを整理してしまいましょう。

「働き方改革」で効率的に判断が下せる経営管理システムに

 経営の一番の仕事は意思決定です。速く正しい意思決定ができればできるほど、業務は効率化していきます。これ以上の「働き方改革」はありません。

 逆に、現場の数字の集計を繰り返し、人の手を通せば通すほど忖度仕事が増え、経営はタイムリーに状況を判断できなくなってしまいます。

 本気で働き方改革を実現させたいなら、現場の手を煩わせず、経営直結の経営管理のシステムを導入することです。コツはその設計を現場にやらせるのではなく、役員以上自らがコミットして進めていくことです。判断する視点は「経営の意思決定に必要な情報がタイムリーに判断できること」です。

 飛行機のコクピットにはたくさんの計器が並んでいますが、パイロットが飛行中に見ているのはほんの数個だそうです。その計器で異常値が発生すれば関連する他の計器を見て、飛行の安全を確保するのだそうです。

 経営も一緒で、必要なのはいくつかの指標に関するタイムリーな値の把握です。その数字に異常値が出れば、現場に原因を確認させればいい。つまり経営のシステムもシンプルなものほど使い勝手がいいのです。

 システム設計のポイントは、現場のデータをできる限り現場の人間が手を触れず、タイムリーに経営陣に伝わるようにするということ。

 現場に任せると今のシステムを活かす方向で考え、システム設計も「忖度システム」になってしまいます。既存の業務システムにプラスしまくるので、現場の入力や集計作業が増えるだけでなく、システム会社に多額の開発費を請求されてしまいます。

 鶴巻温泉の老舗旅館「元湯・陣屋」は、借金10億円から奇跡のV字回復を果たしました。この奇跡を成し遂げた現在の社長と女将夫婦が倒産寸前の旅館の後継者となった時、武器となったのがわずか10万円の初期投資で作った顧客管理システムでした。このシンプルなシステムで徹底的に効率化を行い、お客様の満足度とリピート向上に繋げて業績を回復。いまや業界では異例の週休3日も成し遂げるほどの優良企業に生まれ変わりました。

 働き方改革で社員の労働時間を短縮しなければならないと言っても、先に「休み方改革」をするのは困難です。経営者は業績が落ちるのが怖いからです。かといって、止める会議でムダや仕事を削ぎ落しても、そこでさらに高い業績目標を負担させると、結局現場は疲弊の限界値を超えてしまいます。メンタルや体調を崩す人がでることとなり、残った人への負荷が増してしまいます。退職する人もでてくるでしょう。

 労働時間短縮のチャンスは、ムダを減らし、業績が上がった瞬間です。目先の業績アップよりも社員の健康と人生の充実を優先し、思い切って休みを取らせる。その勇気を持つことが必要です。

 この段階になると、業務の効率がよくなっているので、社員が休んでも「以前よりラクに、速く、確実に成果が出せる組織になっていた」と実感できるでしょう。働き方改革は目指すものではありません。「気づいたらそうなっていた」が、成功する組織の実態なのです。