だが消費者も、どこかで働く労働者なのだ。ならば、働く人の意識改革というよりも、消費者である私たちの意識を変えたほうが、世の中はもっと生きやすくなるし、楽しくなるのではないだろうか。そして、きっとそれは、私たちの働き方改革に確実につながることになるだろう。

 これまで、企業と消費者は対立関係として捉えられてきた。確かに、大企業は政府と癒着し、貧しい国民が苦しむのを見過ごしている、というマルクス主義的な世界観が、あながちウソとは言えない現実が戦前にはあったのだから、そうした捉え方が必ずしも間違っていたとは言えない。

 しかし時代が変わり、消費者のことをいの一番に考える文化が企業に浸透した今となっては、「消費者もどこかで働く労働者」という捉え方に切り替えなければ、消費者を守ることがもし度を過ぎてしまうと、労働者(実は消費者でもある)を苦しめる、という、おかしな話になってしまう。

 その意味では、消費者の権利を守る消費者庁と、労働者の権利を守る労働基準監督署が連携を深めて、消費者でもあり労働者でもある国民にとってもっとも妥当な落としどころはどこか、考えていくのもよいのかもしれない。

 ツイッターで、興味深い写真が多数リツイートされていた*2。ある居酒屋が張り紙を出していたのだが、その内容というのが、従業員に乱暴な口調で注文したら高額料金、丁寧な口調で注文してくれたら低料金にする、というもの。お客様は神様ではなく、従業員は奴隷ではない、とも。

 こうした主張が多数リツイートされ、好意的に受け止められているということは、「消費者だってどこかで働く労働者なのだ」という認識が、きちんと広がっていることを示しているのだろう。

 働き方改革は案外、消費者の意識改革にポイントがあるのかもしれない。お客様を大切に考え、もてなす気持ちを失わないが、消費者も「共に働くもの同士」という感覚を持ち、あまり理不尽な要求をせず、妥当な落としどころを探るのが大切、というコンセンサスを社会に広げるのが、今後は重要なように思われる。

*2https://twitter.com/gin_shiru/status/1020517728669405184