机に向かっていても、集中していなければ意味が無い。

 昔の大学受験の厳しさを示す言葉として、「四合五落」というものがあった(「四当五落」ともいう)。睡眠時間を4時間に削って勉強すれば大学に合格するが、5時間寝てしまったら落ちてしまう、というものだ。いかに自分を追い込むかが受験勉強の決め手なのだ、と考えられていたことが、このことからも窺える。

 ところが、私は8時間きっちり眠らないと、1日中眠くなるタチ。4時間どころか5時間だって、睡眠不足で勉強どころではなくなる。この言葉を中学生のときに聞いたとき、「ムリ」と思った。「そんな甘い考えじゃ、大学なんか受からないよ」と重ねて言われたときは、じゃあいいや、と開き直ったことを覚えている。

 ところがその後、私の考え方を大きく変える話を聞く機会があった。それは、後に子ども達の指導や、学生や部下の指導をする際のベースとなる考え方を形成するきっかけともなったものだ。

 その方は弁護士だった。今はどうだか知らないが、昭和の時代に弁護士になるための試験(司法試験)といえば、日本で一番難しい試験だといわれていた。その方が言うには、「弁護士になるには、3000時間の集中した学習時間が必要」という話だった。3000時間といえば、1日に6時間勉強したとしても500日、つまり1年半は必要なわけだから、大変な勉強量だ。

 ところが、話がそう単純ではないことは、次の質問をしたときに判明した。

「じゃあ、1日に10時間勉強すれば、1年足らずで弁護士になれるんですね?」と尋ねると、そういうことじゃないんだよ、という答えだった。