ロイヤル・プロジェクトの目的は、その土地に適した農作物を選び、栽培方法から、加工品の製造、製品の販売から生産・流通までトータルな仕組みとして構築し、山岳民族の民生安定を図ることであった。さらにこのプロジェクトは、森林の環境保全を図り、水資源の確保を図りながら、同時に辺境地帯における麻薬問題や治安問題といった諸問題を解決も実現することになった。
その結果、タイはいまではコーヒー豆生産国となっているのである。さらにその後はマカデミアナッツや、各種農産品の生産や加工まで幅広く取り上げられるようになり、タイ全土でロイヤル・プロジェクトが実施されて現在に至っている。かつてはハワイの観光土産として日本では定番だったマカデミアナッツだが、現在ではタイの観光土産にもなっている。
ロイヤル・プロジェクトから生み出された商品は、王室のお墨付きということでブランド力があり、しかも購入すれば社会貢献にもつながるということで、タイ国民のみならず観光客の人気も高い。
観光地化した「ゴールデン・トライアングル」
ロイヤル・プロジェクトのおかげで、麻薬の原料となるケシの栽培はタイ国内では大幅に減少することになった。だが、それにもかかわらずタイ国内で麻薬が流通しているのはなぜか?
それは、隣国のミャンマーでは依然としてケシ栽培と麻薬が生産されているからだ。ミャンマーでは日本のNGOなどの指導により、ケシの代替作物として蕎麦の生産に取り組んでおり、農産加工品として日本市場向けに蕎麦焼酎も製造されている。また中国の援助でゴムや茶の栽培に転換もしてきた。だが、それでもケシの栽培が完全に消滅したわけではないようだ。
ミャンマーからタイへの密輸はそれほど難しくはない。たとえば、チェンライ近郊のタイの地方小都市メーサイは、小川を挟んで対岸のミャンマーのタチレイと国境を接しており国境の検問所があるが、簡単に渡ることができる(下の写真参照)。
ましてや山岳地帯に入ってしまえば、現地住民は熱帯雨林のジャングルを通って国境を行き来しているのが実態だ。そんな状態では厳格な国境管理など、まず不可能だろう。しかも、密輸されるのは麻薬だけではない。銃器も密輸され、人身売買や脱北者などの難民の脱出ルートでもある。
危ない話ばかりが続いてしまったが心配は無用だ。「ゴールデン・トライアングル」はすでに観光地化されており、訪れてみると実に興味深い土地であることが分かる。
タイ北部のチェンライにはぜひ一度は行ってみてほしいし、機会があれば、ぜひ「タイのスイス」ドイトンまで足を伸ばしてみてほしい。「ここがほんとにタイ?」という感想をもつことになるだろう。そしてお土産にはドイトン・コーヒーを買うことをお勧めしたい。