物質と反応せずに透過するということは、その粒子の検出が困難なことを意味します。粒子検出器というものは、粒子と検出物質との反応を利用して、粒子の存在を知るからです。

 検出が難しいため、ニュートリノの研究は簡単ではありません。質量という基本的な性質も、ニュートリノの場合はよく分かっていません。岐阜県の地下にあるカミオカンデとスーパーカミオカンデという検出器のデータによると、質量は極めて小さいですが、どうやらゼロではないようです。

 幽霊のようなニュートリノを検出する手法の一つは、巨大な検出器を用いることです。検出物質を大量に用意することによって、ニュートリノが反応する確率を高めるのです。スーパーカミオカンデも、ここで紹介するアイスキューブも、大変巨大な装置です。

10万個の太陽ニュートリノがあなたの体を通過中

太陽のX線像と紫外線像を重ねた画像。太陽は可視光のほか、このようにX線やニュートリノなども放射している。 Image by NASA/JPL-Caltech/GSFC.

 太陽は光で地球を照らし、温めてくれます。このごろ少々温めてくれすぎな感がありますが、そのエネルギー源は原子核反応です。

 太陽の中心部では、水素の原子核が4個くっついて、1個のヘリウム原子核に変わり、それとともに熱を発生する反応が起きています。この過程でついでに2個のニュートリノが誕生します。正確にいうと2個の電子ニュートリノですが、この記事ではニュートリノと大雑把に呼んでおきます。

 誕生したニュートリノは、なにしろ透過力が高いので、太陽中心から太陽表面までの70万kmをほぼ光速で突っ切り、太陽から地球までの1億5000万kmを500秒で泳ぎ渡り、地球に降り注ぎます。

 地球上のあらゆる物体はこの太陽ニュートリノの照射を昼も夜ものべつ幕無しに浴びています。その数は、1秒あたり1cm^2あたり約600億個です。ただしそのほぼ全てが、衝突も反応もすることなく、ほぼ光速で透過して飛び去ります。

 体積あたりにすると、1Lあたり2000個です。牛乳パック1Lの中には、成分表には記載されていませんが、2000個の太陽ニュートリノが添加されています。ただし2000個の全てが、ほぼ光速で通りすぎるばかりで、何の影響も残しません。