しかし、米国が派遣したイヴァンカ・マリー・トランプ大統領補佐官は一言も言葉を交わさなかった。

 他方で、トランプ大統領は対北強硬派で側近を固める人事を発令している。北朝鮮との対話を唱えたレックス・ティラーソン国務長官を突然解任し、対北・イラン強硬派の軍出身のマイク・ポンペオCIA長官を国務長官に就けた。

 また、ハーバート・R・マクマスター国家安全保障問題担当米大統領補佐官を対北朝鮮外交のベテランで強硬派として知られた、ジョン・ボルトン元国連大使にすげ替えた。

 在韓米軍、在沖縄米軍の訓練強化、韓国からの米国人非戦闘員の退避行動に関する訓練も伝えられている。

 このように、トランプ政権は経済制裁、軍事演習などのこれまで歴代政権によりとられてきた政策のみならず、韓国のSSBN建造容認、強硬派による人事固めなど、北朝鮮の核ミサイル配備に対し、力で対抗し、軍事選択肢を実行できる態勢を固めている。

 ボルトン次期補佐官は今年3月、5月末までに予定されている米朝首脳会談について、「真の目的は北朝鮮の非核化であるべきだ」とし、「もし北朝鮮が(真の非核化に向けた)真剣な議論をする気がないなら、会談は極めて短時間で終わるだろう」と警告している(参照=http://www.sankei.com/world/news/180324/wor1803240028-n1.html)。

 このように、米朝首脳会談は、北朝鮮に対し、「真の非核化」をする意思があるのかどうかイエスかノーかの返答を迫ることが目的の、最後通牒に等しいものとなることが明言されている。

 このようなトランプ政権の強硬姿勢に怯えた金正恩委員長が、同時期の今年1月から密かに打診してきたのが、今回の突然の訪朝、中朝首脳会談であった。

 しかし習近平主席には、米国に軍事選択肢をとらせるような北朝鮮の対応は決して容認できないはずである。金正恩委員長としては、非核化の意思を何らかの形で示すことになろう。

 しかし中朝会談の内容として伝えられている金正恩委員長の非核化発言は、「遺訓に沿った朝鮮半島の非核化」であり、実質的な在韓米軍撤退と同内容の主張の繰り返しに過ぎない。