2 昨秋、対朝鮮半島戦略の大転換に踏み切った米トランプ政権

 もはや北朝鮮の核ミサイル保有を止めることはできない。水爆実験にも成功したとみられる。

 1年程度で北朝鮮は米本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成させるであろう。そのような現実を踏まえて合理的戦略判断に立った場合、米国がとり得る次善の選択肢は、韓国の核保有を黙認することになるであろう。

 もし、韓国に北朝鮮の核戦力を抑止するに十分な独自の核戦力を持たさず、朝鮮半島内で局地的な相互核抑止態勢をつくるのを認めなければ、米国自らが、米本土に対する北朝鮮のICBM(大陸間弾道ミサイル)による報復のリスクを犯しながら、自ら朝鮮半島に軍事介入し、北朝鮮の核戦力とその基盤を破壊するしかなくなる。

 しかしそれが事実上できないことは、上に述べたとおりである。

 それでは、韓国に独自の核抑止力を持つ能力はあるのであろうか?

 核保有の意思は、世論調査でも過半数が核保有に賛成しているなど、韓国国民も支持している。政治指導者が意思決定すれば、韓国国内の政治的障害は少ないであろう。

 能力面でも、韓国には北朝鮮を上回る核・ミサイル保有の潜在能力がある。韓国が本腰を入れてSSBN(弾道ミサイル搭載原子力潜水艦)建造とそれに搭載する核ミサイル(SLBM)の開発に乗り出せば、北朝鮮の核ミサイル戦力との間に相互核抑止態勢が成立するであろう。

 南北がともに核弾頭付きSLBMを搭載したSSBNなどの核戦力を保有し朝鮮半島で局地的な相互核抑止態勢が成立すれば平和共存路線を北も選択せざるを得なくなる。

 通常戦力では、北朝鮮軍は、「現在も、依然として戦力や即応態勢を維持・強化していると考えられるものの、その装備の多くは旧式である」(『平成29年版防衛白書』)。

 北朝鮮の装備は更新が遅れ老朽化しており、質的には米軍装備を主体とし国産化を進めている韓国の比ではない。平和共存を破り、韓国の核報復のリスクを犯しながら、通常戦力で南進を企てて成功させる能力は北朝鮮にはない。