鉄壁のガードにほころび
その異常なまでの権限集中により、今や今井氏は「菅義偉官房長官より首相に近い」とされ、「影の総理」または「日本のラスプーチン」と呼ばれている。グレゴリー・ラスプーチンは帝政ロシア末期、ニコライ2世皇帝夫妻に寵愛されてロシアの政治、外交に大きな影響を及ぼし、ロシア帝国崩壊の一因を作ったとされる怪僧だ。
その血筋と経歴故に極めて用心深く、スキャンダルと無縁だった今井氏だが、ここへきて鉄壁のガードにほころびが見えてきた。1つは今、国会を揺るがしている森友問題への関与だ。
財務省と森友学園の国有地取引に関する決済文書が改竄された問題で、前文部科学省事務次官の前川喜平氏は『週刊朝日』(3月30日号)でこう語った。
「忖度ではなく、官邸にいる誰かから『やれ』と言われたのだろう。私は、その“誰か”が総理秘書官の今井尚哉氏ではないかとにらんでいる」
気の小さい官僚に自分の一存で公文書を改竄する勇気などない、というのが自らも官僚であった前川氏の見立てである。3月27日には、国有地管理の責任者である理財局長だった佐川宣寿(のぶひさ)前国税庁長官の証人喚問が開かれる予定だ。トカゲの尻尾切りで終わらせたい安倍政権側は、佐川氏に「改竄は自分の一存」と言わせたいところだが、切り捨てられる佐川氏がヤケを起こし、「上から言われた」と証言すれば、「上」の中に今井氏が入っている可能性が高い。それを見越した前川氏は最近、長野県で開いた講演で、こうコメントしている。
「役人は辞めればなんでも言える。佐川さんにそう教えてあげたい」
森友問題でも官邸で収束のシナリオを書いているのは、間違いなく今井氏だ。圧倒的な情報量でマスコミを操ってきたのも同氏だが、佐川氏が腹をくくってパンドラの箱を開ければ、中から「今井」の名前が飛び出してくる可能性は高い。
新会長兼CEOは不可能を可能にした「戦友」
もう1つ、今井氏を脅かしているのは東芝問題である。東芝は4月、元三井住友銀行副頭取の車谷暢昭(くるまたに・のぶあき)氏を会長兼CEO(最高経営責任者)に迎える。一見、東芝のメインバンクである三井住友銀行の支援と思われるが、そうではない。「三井のエース」と言われた車谷氏は、頭取レースに敗れて1年前に三井住友銀行を去り、英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズの日本法人会長兼共同代表になっていた。メインバンクが送り込んだ訳ではないのである。
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