安倍政権の「働き方改革」関連法案のうち、裁量労働制の拡大は今国会への提出が見送られた。これで働き方改革で残るのは、残業時間の制限などの規制強化ばかりになった。春闘でも、3%の賃上げを財界に求める統制経済だ。
他方、日銀の黒田総裁は再任が決まり、財政拡大と金融緩和を組み合わせた「超緩和政策」が当面は続くことになった。世界的には保守とリベラルの争点は「大きな政府か小さな政府か」という対立軸だが、この基準でみると安倍政権は「超リベラル」である。海外の評価でも、ドイツのメルケル首相と並んで「リベラルの指導者」と目されている。
アベノミクスは「財政ファイナンス」
アベノミクスは、5年たってもインフレ目標を達成できないが、景気は好転した。それは財政支出を拡大したからだ。安倍首相は消費税の増税を2度も延期し、「教育無償化」などのバラマキで財政赤字を増やした。こういう政策を取ると普通は金利が上がるが、国債を日銀に財政ファイナンスさせれば、金利は抑えられる――これがアベノミクスの発想である。
もちろん黒田総裁は、財政ファイナンスとは認めていない。政府がいくらでも借金できるようになると金利が上昇し、それを買って日銀がどんどん日銀券を発行すると、ハイパーインフレが起こると思われていた。
ところが今は、日銀のバランスシートがGDP(国内総生産)に匹敵する規模になっても、金利は上がらず、インフレにもならない。これは従来の常識では考えられないが、安倍首相がそれを利用するのは、政治的には賢明である。
財政支出や金融緩和は、誰もが歓迎する。今まではそういう超緩和政策をとると、財政赤字が膨らんで、金利上昇やインフレで経済が破綻すると思われていた。ところが21世紀の日本では、従来の常識とは違うことが起きているように見える。
金利がマイナスになるような状況で、金利上昇を心配する必要はない。インフレになったら、日銀が緩和をやめて物価上昇率2%で止めればよい――首相はそう考えているのだろう。これは史上最大の「大きな政府」の実験である。