超新星「2016gkg」の爆発が見えちゃった
2016年9月20日04時30分(協定世界時)、アルゼンチンのアマチュア天文家ビクトル・ブーソ氏は、40cmニュートン式望遠鏡をNGC613という8600万光年先の渦巻き銀河に向けて撮影しました。その時には、NGC613に変わったところはありませんでした。
45分後、撮影を再開したところ、そこには光点が出現していました。光点は43等級/日という、前代未聞の速さで見る間に明るくなりました。「等級/日」などという奇怪な単位は初めて見る方がほとんどだと思いますが、これは明るさが25分で2倍になる増光を示します。その調子で1日増光が続くと16京倍になる勘定です。
超新星がパッチンと弾ける瞬間が捉えられたのです。NGC613に属する1個の星の中心部で、鉄の塊がぐしゃっとつぶれ、重力波とニュートリノと電磁波が放出されたのです。そのエネルギーが約1秒で中心部から星の表面に達し、表面が吹っ飛んだのです。その光が8600万年間宇宙を旅してブーソ氏の40cmニュートン式望遠鏡に入射し、焦点面のCCD素子を感光させたのです。(同時に重力波と1000億Kのニュートリノも地球に到来したはずですが、残念ながら弱すぎて検出されませんでした。)
この超新星はASAS-SNプロジェクトでも確認され、「2016gkg」と名づけられました。
ブーソ氏の共同研究者の見積もりによると、爆発の瞬間がこのように偶然捉えられる確率は100万分の1ということです。
この爆発の瞬間のデータは、恒星内部を伝わる衝撃波や、そこで起きる元素合成、ニュートリノと物質の相互作用などの情報を含んでいます。そして超新星爆発の過程が分かれば、銀河の物理が理解できることは、前述のとおりです。
膨大な予算を投じて建造される巨大装置をばりばり回して研究するような分野では、アマチュア研究者が科学に貢献する余地はほとんどないのですが、天文分野では、個人の小さな望遠鏡が珍しい天体現象をとらえることがあります。これもまた、天文分野の魅力のひとつでしょう。