第一に知っておきたい課題は、補強信号の生成時間だ。「みちびき」が補強信号を生成するには10数秒程度かかる。そのため1秒以下のリアルタイムの位置計測が必要な一般道における自動車の自動運転は、「みちびき」だけでは難しい。一般道における自動運転には、各種センサーやカメラによる位置計測に対して、補助的に「みちびき」による位置情報を活用することになるだろう。
みちびきの将来性に対する懸念も存在する。一番大きいのは「マルチGNSS(Global Navigation Satellite System)」という技術の普及である。これはGPSだけではなく、グロナス、ガリレオ、北斗などの各国の測位衛星システムが送信する信号をまとめて利用し、測位する技術だ。多数の衛星で構成する複数の測位衛星システムを使うマルチGNSSでは、測位に利用できる衛星の数が飛躍的に増える。このため「常に日本の真上に確実に1機見える」というみちびきの利点は薄れてしまう。スマートフォンなどに組み込む測位チップは、すでにマルチGNSS対応への移行が進んでいる。
cm級の補強信号にも、RTK(Real Time Kinematic GPS)測位というライバルが登場している。離れた場所に置いた2つの受信機を使い、測位信号そのものと、測位信号を送る電波(搬送波)の波を用いてcm単位の高精度測位を実現する。プロセサの高速化と地上でのモバイルデータ通信が一般化したことで、RTK測位は「みちびき」よりも短い期間で大規模な高精度測位サービスとして発展する可能性を秘めている。
「みちびき」には、このような課題も少なくないが、やはり生活や産業を変えるほど大きな可能性を持っていることも事実である。肝心なことは、応用が今まさに始まろうとしている点だ。
誰にも、自ら見いだした応用分野において高精度測位サービスの活用で先行し、ビジネスの主導権を握れるチャンスがある。ともすれば、宇宙や衛星は縁遠い分野だと傍観しがちだが、新ビジネスを切り開く「種」として捉えることで、従来にない画期的なサービスを生み出して産業界の主役になることも夢ではない。