ただし、その状態を実現するには、ある条件を満たす必要がある。「ボールを受け取って指示を出すには情報が必要です。情報を持たない人は正しい指示を出すことができません。そのため、サッカー型組織には、情報の公開と共有の仕組みが必要になります」。そこで河村氏は、ClearBoxをバージョンアップし、従業員同士が組織に関する情報、お互いに関する情報を公開・共有して相互理解を促すための新しいシステム「ManubaBox」(マニューバボックス)を作り上げた。ManubaBoxには、従業員一人ひとりが設定した目標と、目標達成度の振り返り、河村氏との定期面談の記録などが蓄積され、従業員全員に共有されている。

10年かけて成し遂げた経営変革

 こうして「顧客の情報」および「組織の情報」を全員が共有する仕組みを作り上げたことで、会社はどう変わったのか。

 河村氏は会社の変化として、まず従業員同士がよく話し合うようになったことを挙げる。さらに最大の変化は、従業員が「お客様の視点で考えるようになった」ことだという。「何かをやろうというときに、お客様にとってどうなのか、お客様はどう思うのかをみんなが真っ先に考えるようになりました」。スタートしたときは1年に30件程度だった「ピンと来ちゃいました!」の書き込みは、今や年間で約2000件にまで増加した。かつて河村氏が強力なリーダーシップで率いていた組織は、従業員一人ひとりが顧客の視点に立って自律的に判断を下す“全員経営”の組織に生まれ変わった。

 カワムラモータースの経営変革は、もちろん一朝一夕に成し遂げられたものではない。河村氏は10年かけて、試行錯誤の中で自分自身を変え、仕組みを変え、組織を変えてきた。だからこそ同社の“異端”の経営は他社には真似できないし、まぎれもない“本物”なのだと言えるだろう。