――現代では「ダイバーシティ」や「女性の活躍推進」が重視されていますが、早くからそれを考えていたということでしょうか。
石井 いえ、そうではないんです。彼が女子教育に力を入れた背景には、女性の社会進出というより「家庭での良妻賢母を増やしたい」という狙いがありました。今の人が聞くと古臭く感じるかもしれませんが、その根底にある渋沢の着眼点は参考にすべきものがあります。
――どういったことでしょうか。
石井 つまり、家にいる妻が教養を持つと、夫もきちんと働きますし、何より子どもへの教育レベルが上がります。すると、最終的には日本全体の国力や経済レベルが上がっていきます。彼はその視点で女子教育を推進したのです。
当時を考えると、女性が外に出ることはかなり珍しいですし、字が読めない人も多くいたと思われます。その中では、いきなり社会進出を掲げても受け入れられなかったかもしれません。実際、晩年には女子商業の機関を作るなど、女性の社会進出にもシフトしていきます。そういった時勢を読んでいた可能性もあるでしょう。
――なるほど。いずれにせよ、良妻賢母を増やすことで国全体がプラスになるという視点は印象に残りました。
石井 そうですね。彼がここまでたくさんの社会事業を行ったのも、「日本の経済や国力を上げたい」という原動力があったはずです。決して慈善活動に熱かっただけの人ではなく、非常に合理的に、国の経済を考えて行動していたと言えます。
その考えを深く知る上では、彼が国際人として行った外交活動もヒントになります。次回は、彼の外交活動を紹介しつつ、渋沢栄一がこれだけの企業や社会活動に関わった意味を紐解きます。