もちろん、ここで言う「トク」の中身は金銭面だけでなく、周囲との人間関係や評価、それに仕事の負担や諸々のリスクなども含まれる。それらをひっくるめて天秤にかけたら、自ら積極的に行動するより、周囲の空気を読みながら言われたとおりに行動するほうが「トク」だった。少なくとも、無意識のうちにそう判断していたわけである。

 では上司や管理職、そして経営幹部はどうかというと、彼らも本音では部下や社員が自立し、主体的に行動するより、指示に従って行動してくれるほうが都合よかった。「親離れしない」と口では嘆きながら、本心ではわが子をいつまでも手元に置いてコントロールしたがる親と似たようなものだ。

 実際には社員にとって受け身のほうが「トク」だとは限らない。それでも欧米やアジア新興国の企業と比べたら、日本企業では「やってもやらなくても大差がない」ことはたしかである。それが日本のサラリーマンを受け身で消極的にしている最大の理由である。その証拠に、同じ日本人でもスポーツ選手、芸術家、作家、デザイナー、科学者など典型的な組織に属さない人たちはサラリーマンとは比べ物にならないほど積極的だ。

人事制度は粗く、乱雑なほうがよい

 したがって、受け身の社員を「自走社員」「自立型社員」に変えるのは(理屈としては)簡単だ。自発的に行動したほうが「トク」になり、自力で大きな夢や目標が実現できるような仕組みに組織全体を変えればよいのである。

 こう言うと、現在の評価制度や報酬体系、昇進制度を実力主義、成果主義に手直しすればよいと思われるかもしれない。しかし現在の制度を修正する程度では不十分である。なぜなら、現在のように体系化されたシステムのなかで管理するところに限界があるからである。