ところがある研究者が、パソコンで使われているような、大して計算速度の速くない装置を並列に組み合わせることで、スパコン並みの処理能力を発揮できることを示した。それ以後、スパコンは並列に装置をつなぐのが当たり前になったようだ。

 コンピューターでは、1個1個の装置は大した能力がなくても並列につなぐと大変な能力を発揮できることが明らかになっているのに、人間の脳はまだ「つなぎ方」が稚拙なようだ。少なくとも、ミツバチより劣っている会議は人間界では数多く見られるようだ。

「ミツバチの会議」なら、多様な意見を取り入れることができ、しかも出てきた意見に刺激を受けてさらに深く掘り下げた意見を引き出すこともできる。会議に参加する人々の脳を、並列回路でつなぐのと同じ効果があるわけだ。会議に参加する人たちすべての脳をつなぎ、1つのネットワークと化すことで、1つの巨大な、処理能力の高い脳を作るようなものだ。

 昨今のファシリテーションやワークショップといった会議の進め方も、言わば会議に参加する人々の脳を並列回路でつなぐ試みであり、ノウハウだと言えるだろう。

 恐らくは、人工知能の開発で分かってきた回路のつなぎ方は、たくさんの人間の知恵を結集する「並列回路」のつなぎ方にもヒントを与えるはずだ。

 民主主義は、現時点では「声の大きい人」に押し切られることが多いことを考えると、コンピューターやミツバチと比べても、まだまだ「つなぎ方」のノウハウが蓄積できていないのだとも言える。

 企業も人の集まりであり、よりすぐれた判断を下していかなければならないはずだ。そのためには、さまざまな情報と知見を持ち寄り、決断していかなければならないはず。

 ミツバチでさえ、分蜂という命がけの選択を民主主義的な方法に則り、多くの情報と意見を取り入れて、なるべく正確な判断を下そうとする。ならば人間にもそれができないはずはない。

 そもそも人間の脳も、1つ1つは大した処理能力がない神経細胞が並列回路で繋がることで、恐るべき処理能力を獲得したコンピューターなのだ。ならば社会も、脳やコンピューターや、はたまたミツバチから学んで、「衆知」を磨きあげる「つなぎ方」を真剣に模索してはいかがだろうか。