あるいは、鉄道の保線の仕事にも似ているかもしれない。線路に歪みがないか深夜にチェックする仕事は、車掌や運転手と違って地味で目立たない仕事だ。10年無事故でも誰も誉めてくれないが、もし線路の歪みで事故が起きれば、責任を徹底的に追求される。最重要なのに評価されにくい仕事だ。

 社会人として働いてきた女性にとって、専業主婦は大いに戸惑わせる仕事だ。会社の業務は上手になってくれば誰かが評価してくれる。しかし料理や洗濯、皿洗いはできて当たり前、しかも「賽の河原」のようにキリがない。積んでも積んでも鬼に崩される石積みのように、家事は同じことの繰り返し。誰も評価してくれないことに当惑する。

 社会的つながりが切れてしまうのも問題だ。学生や社会人として築いてきたつながりは、結婚して専業主婦になるとほとんど切れてしまうことも多い。見知らぬ土地の家の中で1人だけ、ポツンと。しかも、「○○さんの奥さん」というフィルターが邪魔して、社会と直接つながれなくなる。

 人は、誰かとつながることで自分の居場所を確認し、自分の価値を確認する生き物。ところが専業主婦になると社会的つながりが断ち切られ、夫を通じてのつながりしかなくなる。もし夫が無理解な人間だと、女性は自分の位置と価値を確認できなくなる。「無重力状態」に浮遊する不安な状態となる。

 宇宙飛行士となる妻のため、「専業主夫」になる道を選んだ山崎大地氏は、女性が専業主婦になって苦しむのと同じ心理状態に陥ったようだ。妻の夢を支えるために自ら専業主夫になったはずなのに、これまでに培った社会とのつながりが断ち切られ、精神的に不安定になったという。

 ご近所やママ友との付き合いの形で社会とのつながりを形成できたとしても、社会人としてバリバリ仕事をしてきた人の場合、果たして社会に貢献できているのか不安になる。精神的安定を確保するのは容易ではない。こうしたことを男性は理解しているだろうか?

休みのない育児

 育児というのも、社会人経験のある女性を戸惑わせる。学生や社会人の間に「頑張れば誰かが評価してくれる」という成功体験を積んでいる。しかしどれだけ頑張っても子どもは泣きやまず、寝てくれず、そばを離れようとしない。これまでの成功パターンが通じない。