お酢はいつから「健康によい」調味料になったのか?

調味料の名脇役「お酢」の歴史と科学(前篇)

2017.03.24(Fri)漆原 次郎
歌川広重(初代)の1841(天保12年)ごろの作「東都名所高輪二十六夜待遊興之図」に描かれている「寿し」の屋台。握りずしが見える。(所蔵:The British Museum)
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 当地の酒造家に養子入りした初代中野又左衛門は、1804(文化元)年、旅先の江戸で「早ずし」と呼ばれるすしに出合った。すしといえば、古くは塩漬け魚と飯を発酵させた「熟れずし」や、お酢を加えて発酵を早めた「半熟れ」があったが、当時の江戸で流行り始めていた「早ずし」は、ネタと酢飯で握る、いまの「握りずし」の原型にあたるものだ。

 酒を造る傍らで、酒粕を原料とする粕酢も造っていた又左衛門は、この寿司には自分が造る粕酢の風味や旨みが合うと感じ、以来、粕酢造りを本格化させたという。

 当時、江戸では寿司はファストフードだった。その後、「握りずし」が食べられるようになる。寿司が、魚や飯を発酵させたものから、酢を使ったものに移るのに伴い、又左衛門の粕酢は江戸の寿司屋で多く使われるようになった。「握りずしには尾州の粕酢に限る」とまで言われたほどという。

 和泉酢を源流とする米酢、寿司の発展に貢献した粕酢、そして清酒と種酢と水で仕込んで造る酒酢(さかす)。日本の伝統的なお酢は、この3つに大別されている。

健康への注目は近現代以降

 調味料の歴史を眺めると、醤油の工業的生産が始まったのは江戸時代以降だ。それまでお酢は、古代では醤、中世では味噌と並ぶ、日本人の大切な調味料であり続けた。そして、味覚の中の酸味の引き立て役を任されるとともに、味以外の機能面でも頼りにされてきたはずだ。

食べものの味を保つという機能がお酢を使う習慣を広めたのは、間違いないだろう。魚介類や野菜などを酢漬けや酢締めにしたのは、主に腐るのを防ぐためだ。

 また、鯖、鯵、鰯などの強い生臭さを和らげる働きもある。これらの魚を煮るとき、最後にお酢を入れて生臭さを消す「酢煎(すいり)」という調理法が、室町時代にはすでにあった。室町中期にまとめられた料理書『四条流庖丁書』には、「鯉ニテモ鯛ニテモ差(サシ)ミノ如ニ作リテ……煮テ参ラセザマニ酢ヲ指シテ参スル也」とある。

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