調味料は人の味覚などに働きかけ、食べもの風味を引き立ててきた。中でも、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味とある基本味のうち、主に酸味の部分を担い続けてきた調味料といえば「お酢」だ。
小皿にお酢を垂らすのは餃子を食べるときぐらいで、同じ使い方であれば醤油よりも頻度は低い。だが、すし、酢あえ、酢漬けと、混ぜたりあえたりする料理で、酢は大切な役目を果たしてきた。「食べものを締めたい」あるいは「保たせたい」といった人びとの求めに長らく応えてきたのだ。
今回は、そんな調味料の名脇役ともいえる「お酢」をテーマにしたい。前篇では、日本におけるお酢の歴史を追い、調味料としての役割をいかに果たしてきたかを見ていく。そして後篇では、近年、注目が集まっているお酢と健康の関係について、210余年にわたりお酢を造り続けてきた企業の開発技術担当者に、見えてきたお酢のさまざまな効果を聞くことにする。
酒づくりの“先”にお酢がある
お酢は「苦酒、加良佐介(からざけ)」とも呼ばれ、酒造りとの関わりがとても深い。大まかにいうと、酒の延長線上にお酢がある。穀物などを発酵させて酒を造り、そこに酢酸菌を含む「種酢」を加えてさらに発酵させるのだ。アルコールが分解されていくとともに酢酸が増えていき、さらに熟成させると風味の立つお酢になる。