ソテツの実。ソテツにはオスとメスの木があり、受粉させると11月から2月ごろにかけて、メスの木がたくさんの赤い実をつける。

 ソテツは観葉植物としてよく知られるが、奄美や沖縄の島々では食用に利用されている。とりわけ、奄美ではソテツは「命の恩人」として大切にされてきた。奄美大島とその南に位置する加計呂麻島を訪ね、そのことを強く感じた。

暮らしに深く溶け込む

 ソテツはイチョウやマツの仲間で、九州南部や南西諸島、オーストラリアやアフリカなどに幅広く分布している。身近なところでは、学校の正門前のロータリーや海岸沿いなどによく植えられている。ごつごつした茶色い幹にとがった細長い葉が特徴的で、大きくなると3~5メートルにもなる。庭木や観葉植物として親しまれている植物だ。

 九州の南にある奄美群島では、風にも日照りにも強いソテツが海岸沿いの岩場などいたるところで見られる。温帯や亜熱帯植物が混じり、自然豊かなこの島では自生しているソテツもあるが、岩場や崖でも育つので、段々畑の境界にたくさん植えられてきた。台風や雨が多いので、土砂崩れの防止や防風林としてもソテツは活躍している。

奄美大島には、各地にソテツの樹木が見られる。

 窒素やミネラルを多く含む葉は、田畑の肥料として使われ、また傷薬として家庭で使われ、捨てるところなく利用されてきた。大島紬の渋い色は泥染めによるものだが、泥染めに必要な鉄分を補うためにもソテツの葉が使われた。子どもたちはソテツの実でおもちゃをつくり、運動会では玉入れの玉としても使ったという。

 奄美の人々の暮らしにソテツは深く溶け込んでいるのである。