本稿は、日本国内で役員報酬「改革」が議論される背景を整理するとともに、業績連動報酬が企業業績を高めるエビデンス(証拠)は不足しているという事実を明らかにする。その上で、株式報酬のような強力なインセンティブ報酬が道徳心を蝕む副作用をはらんでいることを指摘する。
役員報酬「改革」の背景
経済産業省の「持続的成長への競争力とインセンティブ:企業と投資家の望ましい関係構築」プロジェクトが2014年8月に公表した『伊藤レポート』では、「経営者がイノベーションに挑戦し、新しいビジネスモデル作りに果敢に取り組むよう報酬のバランスを見直し、金銭的な面も含めインセンティブを高める必要がある」と言及している。
東京証券取引所などが2015年に導入した『コーポレートガバナンス・コード』(補充原則4-2①)も、「経営陣の報酬は、持続的な成長に向けた健全なインセンティブの一つとして機能するよう、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである」と言及しており、『伊藤レポート』と同工異曲である。
例えば、グローバル環境先進企業を「ありたい姿」として掲げる場合、環境配慮に対する目標達成度に応じてアメを与える報酬ポリシーを採用すれば、価値創造ストーリーと整合的な環境配慮を経営陣に促すことができる、というのがこれらのレポートのメッセージである。
しかし、業績連動報酬はそもそも意図した通りの結果を生み出しているのであろうか。
以下では、金銭的インセンティブ付与と企業業績との関係を考察した実証分析のサーベイを概観してみたい。