しかし、飲酒と類似した損傷を与え、同様の影響をもたらす寝不足については褒め称え、それこそが強さだと偽る。我々は酩酊状態の兵士を危険な場所に送り込むことは許容しないのに、なぜ、睡眠不足の兵士を投入することを許すのか? 調査によると、睡眠を1日に5~6時間しかとらないことの影響は、血中アルコール濃度0.08%に匹敵するという(筆者注:ウィスキー3杯もしくはビール瓶2本に匹敵)。
米陸軍における睡眠不足の文化は、入隊時の訓練から始まっている。最初の部隊研修から、そのほかの任務にあたる時を除いて休みなく動くことが続けられる。残念なことに、米陸軍は、十分な睡眠が、任務成果、意思決定、公衆衛生、体力、その他全てにおいて重要だということを理解していない。
米陸軍が2015年10月に発行した初の「軍健康報告( Health of the Force report)」によると、米国人の睡眠時間の平均以上を満たしているのは現役兵のわずか15%にすぎない。兵士の10%は睡眠障害と診断されている。米兵の約3分の1は、1晩につき5時間以下の睡眠であり、半数が医学的に重大な睡眠問題を持っている。
米陸軍はこうした問題を認識し、「3本の能力プログラム」という取り組みにで睡眠不足問題に対処しようとしている。睡眠を、身体活動と栄養に並ぶ重点領域と見なして啓発・普及する取り組みである。
だが、組織文化の壁が立ちふさがる可能性がある。6~7月、現役および予備役221人にアンケートした結果、41%はこのプログラムに共感していたが、42%近くが「聞いたことがない」と答え、18%が反対していると述べた。
米陸軍は、飲酒運転を職業的殺人者と見なし、飲酒運転を防止する強力なプログラムや文化を持っている。他方で、少ない睡眠を自慢するたくさんの兵士がいる。これは明らかに間違っている。生死に関わる決定を下す組織である米陸軍において、寝不足が自慢するようなものではないのは自明だ。
これを解決するには、第1に、睡眠の大切さをもっと啓発するべきである。第2に、兵士に「睡眠トラッカー」の使用を義務付け、睡眠状況をチェックするべきだ。一部の兵士たちはこうした提案を笑い飛ばすだろうが、彼らは酔いどれ兵士が軍法の下でどのような扱いを受けるか思い起こすべきだ。第3は、睡眠科学を任務策定に組み込むと同時に、昇進時などの兵士の評価項目に睡眠時間を組み込むことである――。