遺伝子組換えより格段に簡単な方法で遺伝子改変を実現する新たな技術、それが「ゲノム編集」だ。DNAを切る“ハサミ”の役割をする制限酵素などを、細胞の中のゲノムに導入することで、狙ったわずかな数の塩基を人工的に欠損させたり置換させたりすることができる。
今、研究者や企業の間では、従来の交配や接木などに加えて、分子生物学的な手法を組み合わせた「新しい育種技術」(NBT:New Breeding Techniques)が次々と開発されている。ゲノム編集もその1つに位置づけられている。
これらは未来の農業、畜産業、水産業のあり方を大きく変えることが予想される。栽培や牧畜の手間を省く、食材としての劣化を防ぐ、個体を肥大化させるなど、考えられている用途はさまざまある。
一方で、遺伝子の操作を伴う技術を導入することには、慎重になるべきとの考えが起きるのも当然だ。NBTの活用を巡って、どのような規制をすべきかを考えていく必要がある。
そこで、ゲノム編集をはじめとするNBTをテーマに、前後篇で各国の政策や規制についての現状を茨城大学農学部教授の立川雅司氏に聞いている。立川氏はバイオテクノロジーなどの技術が農業・食料に対して及ぼす影響について農業・食料社会学的観点から研究をしている人物だ。
前篇では、NBTの活用について、各国は総じて積極姿勢であるものの、規制のあり方については各国ともまだほぼ検討中ということだった。そして、今後の規制をめぐっては「既存の遺伝子組換えなどの制度的枠組み」がNBTにも当てはまるのかの判断がポイントになるという。
そこで、後篇では「NBTは遺伝子組換え技術に含まれるのか」をめぐる各国の判断状況について立川氏に話を聞くことにする。
産業側は“非遺伝子組換え”扱いに期待
――前篇の最後に、NBTを巡る規制については、既存の遺伝子組換えの制度的枠組みとの関連性が重要になるという話がありました。どういうことでしょうか。