必須アミノ酸と進化の合理戦略

 人類には、その生命を維持するのに必須不可欠なのに、なぜか身体の中で作り出すことができないアミノ酸が9種類あると言われています。やや迂遠ですが列挙してみましょう。

トリプトファン
リシン
メチオニン
フェニルアラニン
トレオニン
バリン
ロイシン
イソロイシン
(およびヒスチジン)

 これらのアミノ酸は、私たちの身体の中で合成することができないので、常に対外から補給し続けないと健康と生命を維持し続けることができません。

 しかし考えてみると不思議ですよね。どうして、必要不可欠な物質を身体の中で作れないのか?

 食料自給率が低い日本の産業政策みたいなもので、下手なことをしているのか・・・。いや、そうではないんですね。むしろ巧妙な生命の生存戦略が隠されている。

 日本の狭い国土、限られた人口を生かして、工業生産に力を入れた方が国力が伸びる。食料品が不足したら、強くなった経済力を背景に海外から導入すればよい・・・。

 高度成長期の日本みたいな話ですが、同様の話が生命の生存戦略でも成立します。国内で農業を維持するのが大変なように、身体の中でアミノ酸をゼロから合成するのはなかなか大変な仕事です。

 それを「輸入」、つまり摂食に任せて、自分自身のパワーは別のことに集中した方が、個体や種の保存上、効率が良いことがある。

 お魚は、例えば身近にいつでも揺れている昆布から接収できるアミノ酸をいちいち身体の中で作る必要はないでしょう。その部署をリストラした方が個体生存の「経営戦略」上有利なはずです。

 ちなみに私たちも昆布で取ったダシを旨いと感じますね。それは、体内での合成が十分でなく、外から摂食した方がいい物質を「美味しい」と感じるようプログラムされてきた私たち人類の進化史、数百万年、いや数億年の因果があるからです。

 決して大げさでなく、今日の我々の食卓の美味もこのように担保されていると言って構わないと思います。