(文:澤畑 塁)
作者:ノーマン ドイジ 翻訳:高橋 洋
出版社:紀伊國屋書店
発売日:2016-06-30
人間の脳は宇宙のなかで最も複雑かつ精巧であるとよく言われる。そして、それほど複雑かつ精巧であるゆえ、一見小さな損傷が大きな障害をもたらすことがある。だがそれと同時に、わたしたちの脳は驚くべき「神経可塑性(neuroplasticity)」を有してもいる。
ここでいう「可塑性」とは、(プラスチックが熱を加えられたときに形を変えていくように)「自己の活動や心的経験に応じて、脳が自らの構造や機能を変える性質のこと」である。
では、人間の脳にはどれほどの可塑性が備わっているのか。また、その可塑性を利用して、脳の機能回復を促すことは可能だろうか。
首の慢性的痛みを自分で取り除いた医師モスコヴィッツ
本書『脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線』は、神経可塑性を利用して実際に脳の機能回復を成し遂げた驚くべき事例を紹介している。それらが「驚くべき」と言われるのには、いくつか理由がある。まずひとつは、それらの治療法が目新しいものであること。もうひとつは、一般に治療のむずかしい疾病や障害に対して、それらが現に効果を発揮していること。さらにもうひとつは、それらが「非侵襲的」かつ「自然」な治療法であることだ。すなわち、切開などで皮膚や身体組織を傷つけたりはせずに、むしろ脳に本来備わっている治癒の力を引き出す、というのがそれら治療法のポイントである。しかし、そんなことがいったいどうして可能だというのだろう。