(文:野坂 美帆)
ロビンソン・クルーソーのモデル、スコットランドの船乗りアレクサンダー・セルカーク。南太平洋の無人島に漂着した彼は、4年4カ月を1人きりで生き延びた。彼が漂着した島はチリにあり、現在ではロビンソン・クルーソー島と名付けられている。
『漂流の島 江戸時代の鳥島漂流民たちを追う』の著者・高橋大輔氏は、広告代理店の職を辞してセルカーク住居跡の発掘プロジェクトを推し進め、13年かけて遂にそれを発見した。そんな高橋氏が日本のロビンソンに興味を持つのは必然だったのかもしれない。
作者:高橋 大輔
出版社:草思社
発売日:2016-05-19
伊豆諸島の南端、小笠原諸島の手前に「鳥島」という無人島がある。直径2.7キロメートルほどの火山島で、面積は約4.6平方キロメートル。周囲を断崖絶壁に囲まれた小さな島だ。開拓の手が入ったこともあったが今では昭和に設置された気象観測所の廃墟が残るだけの島である。アホウドリの繁殖地として有名で、島全体が天然記念物(天然保護区域)として指定され、一般人の上陸が禁じられている。そんな島だ。
鳥島はしかし、「漂流の島」でもある。ここには記録に残るだけで17世紀後半から幕末にかけて累計約100人もの男たちが漂着している。練馬区の10分の1ほどの面積しかない小さな火山島に、繰り返しこれだけの数の漂着民がいる――。しかも記録に残っているということは、何人もの生還者がいるということでもある。航路から外れ、水さえない無人島で、彼らがいかにして生き延び、どのような方法で帰還したのか。そのサバイバルを思えば、著者のような探検家でなくとも心に沸き立つものがある。