(出所:米海軍大学)米海軍大学で行われた第1次世界大戦中のユトランド沖海戦を再現する演習。中央は図上演習部の上級軍事アナリスト、ピーター・A・ペレグリーノ氏(2016年5月10日撮影、資料写真、出所:米海軍大学)

 中国の南シナ海における岩礁埋め立てや軍事拠点化に代表される、力による現状変更や国際的な規範無視が顕著である。それとともに、中国は“アジアの安全はアジアの人々が守る”とした「新安全保障観」や、海路と陸路の経済の活性化を図る「一帯一路」といったスローガンを掲げ、アジア太平洋地域における主導的立場を採ろうとしている。

 2011年11月、米国は、中国の軍事的能力の向上と軍事的行動の拡大を踏まえて、「リバランス」政策を掲げ、アジア太平洋地域をその最優先事項の1つとした。厳しい財政事情下にある米国は、すでに世界の警察官とはなり得ないとは言え、依然として、同地域に大きな影響力を及ぼす主導的立場にあることは間違いない。

 このように、現在のアジア太平洋地域は、地域秩序を揺るがす挑戦がなされ、これはまさに「火が立たない戦争」と形容することができよう。この平素からの戦いという視点から想起されるのが、中国特有の戦争形態である「三戦」である。

「三戦」とは、国内外の世論に訴える「世論戦」、相手の心を揺さぶる「心理戦」、行動の正当性を主張する「法律戦」からなり、2003年の『中国人民解放軍政治工作条例』により、人民解放軍の任務として加えられている。

「三戦」を通じ、中国の考えが国際社会に浸透、拡散していく影響力は計り知れないものであり、特に、南シナ海や東シナ海等の海洋における影響力の行使が顕著である。特徴的なことは、軍事的行動が活発化、広域化し、それとともに高圧的な主張が伴っていることである。中国は、「三戦」を駆使してアジア太平洋地域における主導的立場を確保しようとしており、つまり、主張しつつ行動するのが「三戦」の実態と考えられる。