利用客でにぎわう「チェリー号」

 さらに、桟橋を支える柱の杭が地盤の堅い支持層まで届くよう、この国ではほとんど経験がない水上でのコンクリート杭の打ち継ぎも導入されたという。

 「このダラ桟橋には、新しい技術が数多く取り入れられているのです」と石見さんは胸を張る。さらに、乗船客用と降船客用に桟橋を分けることでスムーズな乗り降りができるようになり、混雑時の川への落下事故もなくなった。

 このダラ桟橋もまた、2015年末に大きな区切りを迎えた。完工から1年が経過したことを受け、施工者側の不手際や施工不良による不具合が発生していないかを確認する瑕疵検査が行われたのだ。

 完工後1年以内にこうした不具合が発見された場合は施工側が無償で改修する責任を負うが、瑕疵検査を経て施主側に引き渡されてからは、維持管理や改修も施主の責任で行われることになるだけに、施設建設事業にとっては、まさに最後の重要な検査だと言える。

 この日、設計および施工監理を行った石見さんら日本工営メンバーと、施工にあたったJFEエンジニアリングの技術者やJICA職員、そして港湾公社および内陸水運公社の職員らは、合同でダラ桟橋と旅客ターミナルの建屋の立ち会い検査を実施。

 建設から1年が経過した状況を確認し、2月には無事にミャンマー側に引き渡された。

新たな協力の芽生え

 ヤンゴン港を舞台にした政府間協力による支援はひとまず終わりを迎えるが、新たな協力の兆しも芽生えている。

 年が明けた2016年1月20日、東海大学海洋学部の渡邉啓介准教授がミャンマー海事大学を訪問。教員や学生ら約200人の船舶関係者を前に、造船技術の国際潮流について講義を行った。

 渡邉准教授によると、東海大学は、今年度内には海事大学との間で協力協定(MOU)を締結した上で、この国の造船人材の育成に向けて大学間交流を積極的に進めていく予定だという。

 7年前、被災地の貧困層のための交通手段の改善という人道目的から異例の判断でスタートした協力は、その後、この国の政治情勢の変貌とともに柔軟に姿を変え、川岸に発展する多くの都市を結び国内の結束を高める交通手段の改善として、さらには基幹輸送サービスの改善と国の経済発展につながる支援として重層的かつ有機的に展開されていった。