手溶接の方法を実地指導する日本人技術者(=調査団提供)

 さらに、ヤンゴン川の潮位変化を高い精度で24時間観測するために供与された2台の自動記録式潮位観測計をヤンゴン川の上流と中流に設置。

 収集した潮位データと、過去65年間のサイクロンの発生記録を基に、ナルギスの発生確率を算出したり、今後30年間に発生し得るサイクロンの規模を予測したり、津波も含めた将来的な災害リスクの検討も実施した。

 その上で、こうした予測結果をミャンマー側に理解してもらうために、どの程度の規模のサイクロンや津波が発生すると国土のどの地域が水没するかを表したアニメーションも製作。

 アニメーションと一連の検討結果は、この国の港湾や水運、気象関係者向けに3回にわたって開かれた防災セミナーの場でお披露目され、海洋防災政策の強化に一役買うことになった。

難条件下で新技術を導入

渡邉准教授の講義には約200人が参加した(=調査団提供)

 一連の協力に関わった日本人技術者は、43人に上るという。

 しかし、その先頭には常に1人の技術者の姿があった。ヤンゴン港開発事務所長を務める日本工営の石見和久さんだ。

 海洋土木を専攻した後、2004年12月のスマトラ沖地震で被災したスリランカの防災計画の策定に携わった経験を持つ石見さんは、ナルギスの発生直後にこの国に入って以来、ヤンゴン港および内陸水運機能の改修・機能強化のために奔走し続けている。

 そんな石見さんが「これまで行ってきた技術訓練や調査・解析の流れの延長線上に位置付けられる実地の工事であると同時に目玉事業」として特に重視してきたのが、冒頭のダラ桟橋の改修だ。

 ヤンゴン港から出るフェリーが接岸するこのダラ桟橋の利用者は1日約3万人。1日たりともフェリーの運航は止められないという制約に加え、干潮時と満潮時の潮位差が大きく、流速も早い時には毎秒3メートルになるというヤンゴン川ならではの難条件ぞろいの中、設計および施工に際してさまざまな工夫が要求された。

 例えば、ポンツーン(浮き桟橋)の周囲をコンクリートで巻くことで耐久性を高めたり、桟橋を受ける受け台とポンツーンを一体化することで、船が接岸する時の揺れを抑え、桟橋の安定を図ると同時に、サイクロンや地震の際の追随性の向上が図られた。