自分たちの土地とお金だから一生懸命になれた

──大勢のお客さんで活気にあふれていますね。どういう経緯でシュシュを始められたのですか。

山口成美社長(以下、敬称略) 私は農家の生まれなのですが、地元の農協に入り営農指導員をやっていました。果樹や畜産の指導販売です。

──農協をやめてすぐに直売所を立ち上げたのですか。

山口 いいえ、父が亡くなったので農家を継ぐことになりました。その際、地域の農業をなんとか元気にしたいという気持ちがありまして、1996年に地域の仲間と一緒にビニールハウスの直売所を始めました。それがスタートです。

 もともとこの地域は「なし」や「ぶどう」などの観光農園が数多くありました。ただし、お客さんは収穫の時期にしかやって来ません。そこで、1年間通じてお客さんに来てもらえる地域にしようということで、廃材のビニールハウスをもってきて自分たちで直売所を始めたんです。

──お客さんは来ましたか。

山口 当時は直売所の数がまだあまり多くなく珍しいということもあって、かなりのお客さんに来ていただけました。

 転機になったのは、翌年(1997年)に地元の牛乳や卵、果物を使ってアイスクリームを作り始めたことです。これはまさに6次産業化の走りになったと思います。

 その頃は農家がアイスを作って売るなんてことはほとんどなかったので、マスコミ各社が取材に来てくれました。おかげで多くのお客さんが押し寄せて行列ができるほどでした。

──そして、2000年にいよいよシュシュをオープンさせるわけですね。

山口 地元の農家が集まり、40名ぐらいの活性化協議会という組織をつくって施設の建設を検討しました。40名いましたけど最終的に残ったのは8名です。「農家にそんなことできるはずないじゃないか」という声がほとんどでした。

 今でこそ「農業に情熱を傾けた8名」と言われていますが、当時は「逃げ遅れた8名」と言われました(笑)。まさか自分たちでやることになるとは夢にも思いませんでした。

──思い切った決断でしたね。

山口 自分たちの資金と土地を持ち寄り、借金もして4億円を投じました。いま振り返ると恐ろしくて身震いします。でも、自分たちの土地で、そして行政の補助金などに頼ることなく自分たちのお金でやったからこそ、知恵を絞って本当に一生懸命になることができたんだと思います。

シュシュの山口成美社長