ムハンマド副皇太子の初仕事は、2015年3月から現在まで続くイエメンへの軍事介入である。夏以降は健康問題を抱えるサルマン国王(80歳)の代理として、米国に加えてロシアやフランスに接近する外交政策を展開する。その様子を見て9月8日付ワシントンポスト紙は「ムハンマド副皇太子が現在の皇太子を飛び越えて第8代国王に就任する可能性がある」と指摘したほどである。

 米国のケリー国務長官も、1月3日のイランとの国交断絶をムハンマド副皇太子が決定したと判断して、電話でイランとの関係を修復するように要請したと言われている。

今後5年で財政赤字解消が目標

 このようにサウジアラビアの軍事・外交面を牛耳るムハンマド副皇太子だが、彼が思い描く経済政策について欧米ではあまり知られることはなかった。その内容が初めて明らかになったのが、1月4日の英エコノミスト誌とのインタビューだったのである。

 インタビュー内容の目玉は、国営石油会社「サウジアラムコ」の株式公開(IPO)についてだった。

 サウジアラコムは、欧米企業から接収した石油権益をベースに1980年に完全国営化された。今や国内に100カ所以上の油田を有し、約6万人の従業員を擁する巨大企業である。

 サウジアラムコは元々、石油鉱物資源省の管轄下にあったが、現在は経済開発評議会の管轄下にある。経済開発評議会の管轄下に移行させたのが、評議会の議長を務めるムハンマド副皇太子だった。

 ムハンマド副皇太子はインタビューの中で、サウジアラムコのIPOについて「今後数カ月以内に決定される可能性が高い」と述べた。

 サウジアラムコの原油生産量のシェアは世界全体の12%を占め、確認済みの埋蔵量でも世界全体の約15%にあたる約2610億バレルを保有している(米エクソンモービルの約10倍)。株式上場した場合の時価総額は数兆ドルに達し、米アップルをも凌ぐ可能性がある(最初に公開される株式の割合は5%以下になるとされている)。

 財源の7割以上を石油関連収入に頼るサウジアラビアの2015年の財政赤字は1000億ドルを超え、国防費や補助金の支給を統御できない状況にある。そのため、サウジアラムコのIPOは手持ち資金の確保に躍起となるサウジアラビア政府の表れであるとみられている。