「戦争を望んでいない」とムハンマド副皇太子

 このような状況にあって唯一の買い材料は、中東地域の地政学的リスクの上昇である。

 サウジアラビアが年初にシーア派指導者を処刑したことをきっかけに、サウジアラビアとイランの関係が緊迫化している。このことは、「OPEC内の協調行動がより一層困難になる」との理由でこれまでのところ原油価格の押し下げ要因にしかなっていない。しかし、今後の展開次第では急騰要因になる可能性がある。

サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン副皇太子(出所:Wikimedia Commons)

 サウジアラビアとイランの軍事衝突への懸念が高まっている矢先の1月4日、サウジアラビアのムハンマド副皇太子は英エコノミスト誌のインタビューに応じて「イランとの緊張激化を望んでおらず、戦争を望んでいない」との考えを示し、注目を集めた。

 王位継承順位第2位であるムハンマド・ビン・サルマン副皇太子は1985年生まれの30歳。大学卒業後、数年間民間企業で働き、2009年12月にリヤード州知事を務めていた父(サルマン国王)の特別顧問として政界入りしたと言われる。

 国防大臣(2010年10月)、皇太子(2012年6月)に昇進する父を、ムハンマド氏は側近として支え続け、2014年4月には自らも国務大臣の要職についた。

 2015年1月に父サルマンが第7代国王に就任すると、ムハンマド氏は国防大臣・王宮府長官・国王特別顧問・経済開発評議会議長に任命され、4月には副皇太子となった。

 サルマン国王には3人の王妃がおり、12人の息子がいると言われている。ムハンマド副皇太子の母親は3番目の王妃だが、先妻の息子たちで要職に就いているのは4男のアブドラアジズ石油鉱物資源副大臣のみである。

 ムハンマド副皇太子はサルマン国王が50歳の時に生まれた息子だ。それだけにサルマン国王は偏愛の気持ちを抱いているのだろうか。ムハンマド副皇太子の学生時代の成績は極めて優秀だったとされているが、権力者が自分の息子を高い地位に引き上げる時に「神童だった」と“神話”を広めることが多い。そのため慎重な評価が必要である。