ルイ14世とルイ15世の長年にわたる放漫財政という負の遺産を継いで1774年に即位したルイ16世は、経済に詳しい人物を登用し、政治に積極的に関わり、フランスの改革に力を注いだ。しかし、保守派貴族が国王の改革案をことごとく潰し、財政の建て直しは失敗した。貴族層に対抗する窮余の策として招集した三部会が思わぬ展開を見せ、その後フランス革命が勃発したことは周知の事実である。

 英エコノミスト誌のインタビューアーは「民主主義がないサウジアラビアでサッチャー流の改革は可能か」と何度も問いかけている。それに対して、実質的に国王の座にあると言っても過言ではないムハンマド副皇太子は、自らが米マッキンゼーに委託して作成した改革プランに自信を示すばかりで、全く危機感を有していない様子であった。

 急激に改革を実施しようと焦るムハンマド副皇太子の姿勢は、ペレストロイカを旗印に抜本的な改革を目指して逆にソ連邦を崩壊させてしまったゴルバチョフソ連共産党書記長も彷彿させる。1980年代後半の「逆オイルショック」がソ連崩壊の遠因になったように、今回の原油価格急落はサウジアラビア王国の崩壊につながる可能性を秘めている。

「原油供給の遮断」に備えよ

 サウジアラビアで政変が起きれば、原油輸入の3割以上をサウジアラビアに依存している日本は、文字通り『油断』(堺屋太一の小説)の状態に陥る危険性がある。

 ただし、現在の日本には当時と違って強力な武器(石油の国家備蓄)がある。石油の国家備蓄については中国での積み増しの動きが話題となるが、日本は第1次石油危機を契機に備蓄計画を開始し、1980年度末にその目標を達成した。現在、3億バレル以上の石油が北海道から九州・沖縄に至るまで各基地に貯蔵されており、日本への原油輸入が全量停止したとしても90日以上にわたって必要な量を確保できる体制が整備されている。

 米国は湾岸戦争の際に国家備蓄石油を放出した。一方、日本はこれまで一度も備蓄石油を放出したことがない。放出のために必要な手続きは煩雑であり、放出の時期を逸してしまうことがかねてから懸念されている。しかし、それではせっかくの備蓄石油も「宝の持ち腐れ」になってしまう。

 杞憂とのそしりもあるかもしれないが、「原油供給の遮断」という未曾有の事態に備えて国家備蓄石油の放出に向けた準備を直ちに行うべきではないだろうか。