イラン政府はガソリン価格を値上げした(写真:AP/アフロ)
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り1バレル=55ドルから58ドルの間で推移している。原油価格は週明けの58ドル近辺から急落し、一時55ドル割れとなったが、その後、地政学リスクが意識されて反転した。
まず原油市場を巡る動きを確認してみたい。
ウクライナ和平交渉が大詰めか
原油価格は12月16日、一時1バレル=54.98ドルまで下落し、新型コロナウイルス禍の2021年2月以来の安値を付けた。「原油市場が供給過剰状態にある」との認識が重しとなり、抵抗ラインとされてきた55ドルを割ってしまった形だ。
国際エネルギー機関(IEA)によれば、昨年の世界の原油市場は均衡していたが、今年は日量230万バレル、来年は同380万バレルの供給超過になる見通しだ。このため、地政学リスクが少し弱まるだけで原油価格が下がりやすい構図となっている。
市場が注目しているのはロシアの地政学リスクだ。ウクライナとの和平交渉が大詰めを迎えており、「和平が実現すれば、ロシアからの原油生産が回復する」との観測が広がっている。
ロシアは相変わらず強硬姿勢を崩していないが、経済は疲弊する一方だ。
ロイターは12日「ロシア政府の12月の石油・ガスからの歳入は前年に比べて半減して4100億ルーブル(約8000億円)となり、通年ベースでも前年比25%減となる見込みだ」と報じた。歳入の4分の1を占める石油・ガス歳入の大幅減少はロシア政府にとって大きな痛手だ。
米国はロシアがウクライナとの和平合意を拒否した場合の備えも用意している。