が、それぞれが様々な道のりをたどっていても、かれらに共通しているのは「知の力」を信じていることだ。満州建国大学がどんな理想を掲げようが矛盾をはらんでいることを彼らは当然感じていた。それでもなお、だからこそ、かれらは真剣に悩み答えを求めて議論し続けた。国家とは、民族とは、故郷とは何か。自分の使命とは何か。その答えにたどりつこうと悩みもがいたことで身に付いた知の力が、理不尽に耐えなくてはならないときにも心の支えとなったのである。
そして、政治体制にかかわらず、権力というものが知の力を恐れるのもまた共通している。とくに「野にある知」を権力がいかに疎んじるか。「まつろわぬものたちの知」をいかに恐れるか、いかに粗末にあつかうか。取材が重ねられるなかで浮かび上がってくるのだ。
建国大学同窓会は事実確認などの原稿の裏取り作業にも多大な協力を惜しみなく注いでくれたそうである。いまだ満州建国大学の記録が身の危険につながりかねない環境に生きている同窓生もいることに配慮し、同窓会の幹部たちと何度も話し合って本書は完成した。
無念を抱いたままこの世を去った同窓生たちの声なき声にも思いを馳せ、学ぶということの意義にも謙虚な気持ちにさせられる作品だった。
麻木 久仁子
タレント。1962年11月12日生まれ。学習院大学法学部中退。ソファーに寝そべって本を読んでいる時が至福というインドア派。好きなジャンルは歴史物。ブログはこちら http://ameblo.jp/kuniko-asagi/
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