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(写真はイメージ)

(文:仲野 徹)

世界地図が語る12の歴史物語
作者:ジェリー・ブロトン 翻訳:西澤正明
出版社:バジリコ
発売日:2015-10-07

 地図を見るのは楽しい。行ったことがある場所なら、あぁこんなだったと思いだせるし、行ったことがない場所なら、どんなところだろうかと想像力がかきたてられる。いまや、世界中、地図のないような場所はない。しかし、そんな時代になったのは、それほど昔のことではない。

 古代バビロニアに始まり現代で終わる、地図についての物語集だ。それぞれの地図が作られた時代が語られ、その意味とインパクトが語られる。一つずつが含蓄あふれる物語になっているが、通して読むと、地図というものが、どのような目的でどのように作られてどのように利用されてきたのかが手に取るようにわかる。

科学的な地図作成はいつ始まったのか

 最古の地図として紹介されているのは、イラクで出土した、紀元前700~500年頃の古代バビロニアの粘土板である(序章)。そこに刻まれた楔形文字の内容から地図だと確定されているが、その絵柄だけだと地図とはわからないという程度の代物だ。それが、紀元前150年ころ、プトレマイオスの手によって一気に発展を見せる。

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 プトレマイオスの『地理学』にあるヨーロッパの図は、我々が見慣れた形をしているが、『地理学』は原本が残っておらず、はたしてその中に地図があったのかどうかすら定かでない。しかし、プトレマイオスが、世界地図作成における最大の難問、球形の地球をいかに平面に投影するかを、その著書『地理学』で考察したことは間違いない事実だ。地図作成に科学的な手法が持ち込まれたのだ(第一章 『科学』)。