米、南シナ海の作戦継続伝達 米中国防相会談 双方に融和姿勢も

東南アジア諸国連合(ASEAN)拡大国防相会議に合わせて開かれた2国間の国防相会談のためマレーシア・クアラルンプール郊外のスバンに到着した米国のアシュトン・カーター国防長官(中央、2015年11月3日撮影)〔AFPBB News

 今年10月に米国艦艇が南シナ海に入り、中国が岩礁を埋め立て一方的に主張している領海内を航行させた。このため米中間では緊張が高まっている。その背景にはどのような戦略があり、今後どのように推移するのであろうか。

1 米中間の南シナ海海域での核戦力バランスの変化

 今回の東シナ海での衝突の背景には同海域での米中間のバランス・オブ・パワーの変化がある。抑止が機能するには、戦力の各レベルでの優位が確保されているのが望ましい。

 戦略核、戦域核、戦術核、通常戦力の各レベルでの戦力比較を戦場の地政学的特色に応じて行えば、国益の対立が生じたときにいずれが譲歩することになるか、その後の米中双方の対応をおおよそ予測することができる。

 なぜなら、紛争の危機に直面した段階では、指導者は、万一紛争になった場合の軍事的対応力を何よりも重視して、行動方針を決定せざるを得なくなるからである。

 もしも、自らが劣勢と判断すれば、例え死活的国益がかかっていても、譲歩せざるを得なくなる。あるいは抗戦を決断しても壊滅的敗北をこうむる前に停戦に応ずることを見越して戦うことになる。

 戦略核のレベルでは約10年前に、米中間で核戦争になり中国が先制奇襲に成功すれば、都市化の遅れた中国は2600万人の被害で済むが、米国側には4000万人程度の犠牲者が出る、米側が先制すれば中国側の一方的敗北に終わると、米国のシンクタンクは予想していた。

 しかしその後、中国の戦略核兵器の地下化、移動化、多弾頭化、水中化が進み精度も破壊力も向上した。いまでは中国側は米国の先制から生き残り報復できるとみられている。

 このように戦略核のレベルでは、中国の核戦力の近代化と人口の多さ、都市化の遅れにより、米中はよりパリティに近づいている。

 射程が5500キロ以下の戦域核兵器については、米国は中距離核戦力全廃(INF)条約に基づき全廃している。アジア太平洋正面でも、2013年には攻撃型原潜に搭載していた核弾頭搭載型のトマホーク巡航ミサイルを全廃している。その替わりとして、グアムに核搭載型のステルス爆撃機が配備された。

 他方で中国は、INF条約の制約を受けることなく、グアム、日本、インド、東南アジア諸国などを攻撃できる、戦域向けの核搭載可能な各種の弾道ミサイルと巡航ミサイルの配備を進めており、その数は500発以上に上っているとみられる。

 さらに米空母の攻撃も可能とみられている通常弾頭の弾道ミサイル「DF-21D」も配備された。

 中国は台湾対岸に短距離弾道ミサイル1200基以上を配備しており、その数は毎年増加している。移動式で射程も1000キロ以上に伸び、沖縄の一部も攻撃可能になっている。これらには戦術核弾頭の搭載も可能とみられている。

 このようにアジア太平洋における米中間の戦域/戦術核戦力のバランスは、すでに中国側が優位になっている。この状況は東シナ海でも南シナ海でも同様である。

 その結果、いわゆる「接近阻止/領域拒否(A2/AD)」戦略により、米空母打撃群が東シナ海や南シナ海の中に入れなくなっており、尖閣諸島や南沙諸島などの域内の離島の防衛警備ができなくなるのではないかと憂慮されている。