押し寄せるTPPの波、「攻めの農業」は実現できるのか

日本農家の創意工夫の意欲を削ぎ落とすな

2015.11.06(Fri) 白田 茜
筆者プロフィール&コラム概要

耕作放棄地を減らすには

 また、耕作放棄地は固定資産税が安いため、農家が耕作をやめても農地として抱え込んでいる実態があったという。実際、全国の耕作放棄地は約40万ヘクタール。これは全農地面積の1割近くに上り、年々増加している。農家の高齢化と後継ぎ不足などが原因だ。

 そこで、政府は7月、農地として税制上優遇されている耕作放棄地に対する固定資産税を現行の約2倍に引き上げる方針を固めた。農業に意欲がある担い手に貸し出せば非課税にする優遇策と組み合わせ、耕作放棄地の集積を目指すという。ただ、すべての耕作放棄地の固定資産税を2倍にするとなると、耕作放棄地になった背景はさまざまなので反発も予想される。

 耕作放棄地は山間農業地域で最も多く、鳥獣被害が深刻化している地域もある。侵入防止柵の設置などで動物の侵入をくい止めている農地もある。耕作をやめれば、鳥獣の活動範囲が広がり、被害が深刻化する可能性も高まる。耕作放棄地が獣道になってしまうなど、農地の再生が難しいケースもあるようだ。新たな担い手には、優良な土地から貸し出す配慮が欠かせないだろう。

 現在、日本の平均農地面積は約2ヘクタールだが、農林水産省は「食と農林漁業の再生実現会議」での検討結果として「平地で20~30ヘクタール、中山間地域で10~20ヘクタールの規模の経営体が大宗を占める構造を目指す」という方針を打ち出した。

 今後もさまざまな形で農地の大規模化が後押しされそうだが、北海道のコメ農家からはこんな声も聞こえる。

「大規模化の前に、それに耐えうる人材育成が必要。いままでの農業政策に経営者を育てるという視点がなかったことが、今日の迷走につながっているのでは。加工品の開発、販路開拓などで企業と手を組んでも、農家側の意識が変わらなければよいコラボレーションができるわけがない」

 一口に大規模化といっても、稲作、畑作、果樹作では生産の構造が異なる。都市近郊圏や中山間地域ごとに地域性もある。農家の経営規模や作物の種類からどのくらいの栽培面積の拡大が可能なのか、園芸作物だったら他の作物や品種、作型の栽培面積の構成をどうするか、労働力や資金面の確保をどうするかなどのシミュレーションが欠かせない。農家の目線に立った規模拡大が必要だろう。

「攻めの農業」へ求められる国内対策

 TPP総合対策本部の初会合で安倍晋三首相は「守る農業から攻めの農業に転換し、若い人が夢を持てるようにしていくよう、万全の対策を講じていく」と強調した。政府は国内農業への影響緩和策を含めた「政策大綱」を11月中にも策定して補正予算を編成するとしている。

 TPP大筋合意を受けて、前出の北海道のコメ農家からはこんな意見があった。「農産物を工業品と同じ扱いとするところに不満があります。食は文化なのだから、国や民族で聖域があって当然だと思います」。

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