長野県松本市の東部に位置する山辺地区にある山辺ワイナリー。地元のブドウ農家たちが2002年に設立したこのワイナリーの商品が、市外の小売店に並ぶことはありません。それは、なぜなのか。さらに、高齢化に悩む地元農家がワイン造りに乗り出した理由とは。國學院大學経済学部准教授の山本健太氏に聞きます。

なぜ地元限定なのか?

──長野県産のワインは全国的にも有名ですが、「山辺ワイナリー」の名前は初めて聞きました。

山本健太氏(以下、敬称略) 典型的な地産地消型商品ですからね。山辺ワイナリーの主な出荷先は、松本市内のスーパーマーケットです。ネットショップも開設していますが、市内店舗での売り上げがほとんどのようです。

マスカットベーリーA 樽熟成 [辛口] [2013年] 山辺ワイナリーのワイン販売専門通販サイトより)

──ほぼ松本市内に供給を限定しているのは、なぜでしょうか。

山本 端的に言うと、そもそもの醸造量があまり多くないのです。

──工場の生産能力の問題ですか?

山本 いいえ、山辺ワイナリーは農協からの出資を受けていることもあり、立派な設備を持っていますよ。ではなぜ大量に醸造できないのかというと、原料とするブドウを地元からしか仕入れない方針があるからです。

 今年の聞き取り調査によると、集落の農家350戸中32戸が山辺ワイナリーにブドウを納品するそうです。山辺地域におけるブドウの収穫量には限りがありますから、松本市以外に市場を拡大したら、すぐに供給が追いつかなくなるでしょう。

──ということは、ブドウの収穫量を増やせれば、市場拡大の可能性も・・・?

山本 おそらく、山辺のブドウ農家にはその気はないでしょう。昨年の夏に現地で行った聞き取り調査からは、彼らがなぜワイン事業に乗り出したのか、その背景と共に、あえて市場拡大をしない理由も見えてきました。