2006年に始まった「B-1グランプリ」が火を付けたご当地グルメブーム。
瞬く間に全国区に躍り出た「横手焼きそば」や「甲府鳥もつ煮」に続けとばかり、日本中の町おこし団体がメディアやイベントを通じて地元の食をアピールするようになりました。
國學院大學経済学部 准教授の山本健太氏は、こうした現象を別の視点からとらえています。実際に地域経済の振興に役立っているご当地グルメは、ごく一部に限られているからです。同氏は産業集積研究の見地から、ご当地グルメは地域密着型であるべきだと語ります。
真の「ご当地」グルメと言えるのか?
──このところ、郷土食を観光資源化して地域振興につなげようという動きが各地に見られますね。
山本健太氏(以下、敬称略) いわゆるご当地グルメが流行していますが、私はこの傾向に懐疑的な見方をしています。ご当地グルメに注目が集まれば、地域の知名度が高まるといった効果はあるでしょう。しかし、実際に地方経済を救えているかというと、決してそうとは言えないケースも少なくありません。
例えば、ショッピングモールのフードコートや、駅の構内・高架橋下などにご当地グルメを集めた飲食施設を見ることがありますが、それらの全てが、「ご当地」の地元企業や生産者に利益が入るものとは限りません。「地域食」を語りながらも、経営母体がその地域とは関係のない企業だったり、全国展開する大企業だったりということもあります。
一方、町おこしを目的に新たに開発されたご当地グルメや、インパクトはあっても地元で実際に親しまれているわけではないものもあります。
――「テレビ番組でご当地グルメが紹介されたが、地元の人に聞いたら全く知らなかった」という話もよく耳にします。
山本 そういうものが注目を集めたところで、一過性のブームに終わってしまう可能性は否定できないでしょう。では、地域に息長く経済効果をもたらすご当地グルメとは、どのようなものか。食が地域経済を活性化する本当の資源となるには、地域密着がカギになると考えています。
「黒はんぺん」をご存知でしょうか。私が生まれ育った静岡県では、大変ポピュラーな食品で、青魚を主原料に作られる半月状の黒い練り物です。
とくに、焼津市の黒はんぺんは、焼津港に隣接する小川港に水揚げされたサバを主原料にしていて、静岡県内でも最もメジャーです。